76 / 102
あるべき恋の姿
(8)
しおりを挟む
すると、藤原さんも俺の気持ちを察してくれたのか、声を顰める。
「その方には当時付き合っていた方がいたそうなんですが、どうしても東雲さんがその方とお付き合いしたかったそうで付き合っていた方に別れるようにしつこく付き纏ったり脅迫したりしたそうで」
「…脅迫?」
「気持ちの良い話ではないのですが。しかも最終的には警察沙汰になりかねなかったとか」
表面上は努めて冷静に聞いていたが、内心では嫌な汗がぶわっと噴き出していた。
警察沙汰にはなっていないけれども、今、自分の置かれている状況はまさに藤原さんの言うそのものだ。
思い返してみれば、克巳との仲が拗れたのは彼女が原因だった。
三年目の同棲記念日をドタキャンされたあの日に始まり現在に至るまで、全てとは言わないが渦中には彼女がいる。
もしも藤原さんの話が信ぴょう性のあるもので限りなく事実に近しいのならば、恐らくこの先の展開もそうなる可能性があるということだろう。
「…その方は結局、どうなったんですか?」
純粋にその行方が気になった。自分と関係のないことならこれほど気にならなかったと思う。
だが、最早これは他人事ではない。
藤原さんはとても言いにくそうに、言葉を選びながら告げた。
「…結局付き合っている方から顛末を聞いたその方は、非常にお怒りになったそうで東雲さんに対してきつく怒ったそうなんです。その態度に激情した東雲さんは、その方につかみかかったそうです」
又聞きのせいなのか、それとも藤原さんの演奏に関すること以外は穏やかな性格がそうさせたのか、最後の方は随分とふんわりさせた言い方のように聞こえた。
しかし、充分過ぎる情報量だ。正直なところ、この場では即座に処理しきれない。
「又聞きの身でここまでお話しするのは気が引けますが、戸崎先生の元気のなさの原因がもしやと思うところもありまして」
「え?」
「目測誤っていたらすみません」
そう言うと藤原さんは「引き留めてしまい申し訳ありません」とにこやかに背中を見せた。
一方で俺は、にこやかになんていられず。ただ、いろいろなことに度肝を抜かれた気持ちで立ち尽くすしかなかった。
東雲先生のことに関してもだが、まさか自分と克巳のことまで示唆されるとは。
芸術家の目利きがこれほど恐ろしいとは、身を以て実感するしかない。
「その方には当時付き合っていた方がいたそうなんですが、どうしても東雲さんがその方とお付き合いしたかったそうで付き合っていた方に別れるようにしつこく付き纏ったり脅迫したりしたそうで」
「…脅迫?」
「気持ちの良い話ではないのですが。しかも最終的には警察沙汰になりかねなかったとか」
表面上は努めて冷静に聞いていたが、内心では嫌な汗がぶわっと噴き出していた。
警察沙汰にはなっていないけれども、今、自分の置かれている状況はまさに藤原さんの言うそのものだ。
思い返してみれば、克巳との仲が拗れたのは彼女が原因だった。
三年目の同棲記念日をドタキャンされたあの日に始まり現在に至るまで、全てとは言わないが渦中には彼女がいる。
もしも藤原さんの話が信ぴょう性のあるもので限りなく事実に近しいのならば、恐らくこの先の展開もそうなる可能性があるということだろう。
「…その方は結局、どうなったんですか?」
純粋にその行方が気になった。自分と関係のないことならこれほど気にならなかったと思う。
だが、最早これは他人事ではない。
藤原さんはとても言いにくそうに、言葉を選びながら告げた。
「…結局付き合っている方から顛末を聞いたその方は、非常にお怒りになったそうで東雲さんに対してきつく怒ったそうなんです。その態度に激情した東雲さんは、その方につかみかかったそうです」
又聞きのせいなのか、それとも藤原さんの演奏に関すること以外は穏やかな性格がそうさせたのか、最後の方は随分とふんわりさせた言い方のように聞こえた。
しかし、充分過ぎる情報量だ。正直なところ、この場では即座に処理しきれない。
「又聞きの身でここまでお話しするのは気が引けますが、戸崎先生の元気のなさの原因がもしやと思うところもありまして」
「え?」
「目測誤っていたらすみません」
そう言うと藤原さんは「引き留めてしまい申し訳ありません」とにこやかに背中を見せた。
一方で俺は、にこやかになんていられず。ただ、いろいろなことに度肝を抜かれた気持ちで立ち尽くすしかなかった。
東雲先生のことに関してもだが、まさか自分と克巳のことまで示唆されるとは。
芸術家の目利きがこれほど恐ろしいとは、身を以て実感するしかない。
2
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
何処吹く風に満ちている
夏蜜
BL
和凰高校の一年生である大宮創一は、新聞部に入部してほどなく顧問の平木に魅了される。授業も手に付かない状態が続くなか、気づけばつかみどころのない同級生へも惹かれ始めていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる