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あるべき恋の姿

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 藤原さんの言葉通りだ。教師にとってみれば何年も続く教職生活の一年、だが生徒にとっては一生に一度の一年なのだ。

 プライベートで何があろうと憂鬱になっている場合ではないと、気合いを入れ直した。

「やだ~油井先生ったら!」

 藤原さんが職員玄関で靴を履こうとした矢先、後方から甲高い声が聞こえた。

 振り返らなくてもわかる、この学校で甲高い声を発するのはただ一人だけだ。

 時刻は放課後の6時。部活動に属していない生徒は既に帰宅しているとは言え、校内にはまだ生徒が多数残っている。

 …煩いな。

 学生じゃないんだからと、思わず怪訝な顔をしていたのだろう。

 藤原さんが後ろを振り返り、じっと見据えていた。

「ああ~すみません、騒々しくて」

 迫力のある瞳に見つめられると少々、気後れしてしまう。特に藤原さんの瞳は、はっきりとした二重が特徴的であり黒目が大きい。

 思わずそう謝罪すると藤原さんは、まだ俺の後方を見据えたまま「戸崎先生が謝ることじゃないですよ」と言う。

 だが、そういうわけにもいかないだろう。ここの職員であるならまだしも、外部講師である藤原さんに迷惑をかけるわけにもいかない。

 ないとは思うがもし万が一にも、藤原さんが気を悪くでもしてしまえば今後、外部講師を引き受けてくれなくなることだって考えられる。

 そうなれば被害を被るのは生徒だ。そんなことはあってはならない。

「いえ、まだ生徒が在校している時間にも関わらず煩くしてしまって、本当に申し訳ありません」

 誠心誠意、謝った。すると、藤原さんがふっと微笑む。

「大丈夫ですよ、戸崎先生。私、辞めませんから」

 まるで心を読まれたようだと思った。驚きのあまり硬直しそうになり、慌てて言葉を発する。

「あの、それは」

「そんな顔をしてらしたので」

 クスクスと楽しそうに笑う藤原さんとは正反対に俺の顔はヒクヒクと引き攣っている。

 昔から思ったことが顔に出るとよく友人や親にも言われてきたが、まさかまだその癖が出ていたとは。

 完全に油断していたと、恥ずかしさやら申し訳なさやらで言い淀んでいると藤原さんが何か言いたげな表情で眉間に皺を寄せている。
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