多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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忘れていた恋の記憶

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 キスだ。そう気が付いたのは、もしかしたら俺のファーストキスだったからなのかもしれない。

 ゆっくりと視線を合わせながら離れていく温もりを目で追うと、ユウリが俺の手を握りながらまだ重なった瞳のまま言った。

「…それってこういうことで、良かった?」

 ハーフらしい、と言えば偏見なのかもしれないが、日本人らしくないその言葉に俺は、俺は。

「…バーカ。そんなの、言わなくてもわかるだろ?」

 あの瞬間、確かに俺はユウリを好きだと、独占したいと思っていた。

「奏?おーい、奏くん?」

「…良樹、俺、わかったかもしれない」

「やっとか。良かったな、奏」

 いつの間に終わっていたのか、ピカピカのシンクにもたれながら言う良樹がカッコ良く見えた。

「照り焼きチキン」

「え?なに?」

「明日の晩飯、俺、照り焼きチキンがいいんだけど?」

「ははッ、了解!」

 それはまたこの家に居候させて貰えるという了承の合図だろうか。

 まったく、捻くれた性格だ。まあ、人のことは決して言えないけど。

 いまだ眠り続けるユウリに目を向けると、馬鹿でかいはずのソファが小さく感じる。

 …あーあ。なんかこれが、しっくりきちゃうんだよなぁ。

 変わらない光景、少し前まで失っていた光景がとても愛おしく思えた。
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