上 下
67 / 102
忘れていた恋の記憶

(6)

しおりを挟む
 走り出し、あと少しで辿り着くと思った矢先。俺は、自然と足を止めていた。

 何故ならそこには、複数の男女がユウリを中心に囲んでいたから。

 瞬間、過ったのは何故という疑問だった。

 イタリアと日本のハーフという容姿から、ユウリが嫌でも目立つということはわかる。それに、容姿だけではなく性格も超が付くほど良い奴だということも。

 だから、人が集まる。それも充分に理解しているつもりだった。

 なのにあの瞬間だけは、無性に苛立って仕方がなかった。

 だってお前、俺のことが好きなんだろ?何回も告白してくれたじゃないか。

 ユウリ、ユウリと声を掛けられ、楽しそうに微笑むユウリに腹が立っていた。

「ユウリ、お前何してんだよ!」

 大股で近付き、棘のある声で罵っていた。

「え、奏?なんでここに、ってかどうしたの?」

 もちろん、戸惑ったようにユウリは言ったが俺はそんなユウリを無視し、囲む人の中から腕を引っ張った。

 早歩きから小走りに変わり、俺たちは気付けば人通りの少ない通りに出ていた。

「奏ッ、ハァッ…いきなりどうしたの」

 ユウリが息を切らし言う。ユウリはこう見えてバスケやバレーなどは苦手で、どちらかと言えば文系の部活が得意だ。

 肩で息をするユウリの額から汗が滴り落ちていた。

 涼しいとはいえどもそれは例年に比べてのことで、夏特有の湿度を持つ気温は充分に肌に纏わりつく。

 正直、とても扇状的だった。ユウリの薄い茶色の髪の色を濃くさせた汗がツーッと滑らかに落ちていく。

 いやらしさの欠片もない清純なこの男が、俺を好きだと言った。

 唐突にその事実が頭と胸を占め、そして甘く切なく締め付ける。

 欲しい、この男が。この男を自分だけのものにしたい。

「お前、俺を好きだって言ったよな?」

「…うん、言ったよ?」

「…じゃあなんで」

「え?」

「だからッ!なんで俺以外の奴に笑いかけてんだよ、触らせてんだよって言ってんの!」

 人通りのいない道を照らす街灯が映し出す影が、やたらと近い。

 その影がふと、重なった。そう思った瞬間、唇に柔らかい感触が重なる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

浮気性のクズ【完結】

REN
BL
クズで浮気性(本人は浮気と思ってない)の暁斗にブチ切れた律樹が浮気宣言するおはなしです。 暁斗(アキト/攻め) 大学2年 御曹司、子供の頃からワガママし放題のため倫理観とかそういうの全部母のお腹に置いてきた、女とSEXするのはただの性処理で愛してるのはリツキだけだから浮気と思ってないバカ。 律樹(リツキ/受け) 大学1年 一般人、暁斗に惚れて自分から告白して付き合いはじめたものの浮気性のクズだった、何度言ってもやめない彼についにブチ切れた。 綾斗(アヤト) 大学2年 暁斗の親友、一般人、律樹の浮気相手のフリをする、温厚で紳士。 3人は高校の時からの先輩後輩の間柄です。 綾斗と暁斗は幼なじみ、暁斗は無自覚ながらも本当は律樹のことが大好きという前提があります。 執筆済み、全7話、予約投稿済み

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

君がいないと

夏目流羽
BL
【BL】年下イケメン×年上美人 大学生『三上蓮』は同棲中の恋人『瀬野晶』がいても女の子との浮気を繰り返していた。 浮気を黙認する晶にいつしか隠す気もなくなり、その日も晶の目の前でセフレとホテルへ…… それでも笑顔でおかえりと迎える晶に謝ることもなく眠った蓮 翌朝彼のもとに残っていたのは、一通の手紙とーーー * * * * * こちらは【恋をしたから終わりにしよう】の姉妹作です。 似通ったキャラ設定で2つの話を思い付いたので……笑 なんとなく(?)似てるけど別のお話として読んで頂ければと思います^ ^ 2020.05.29 完結しました! 読んでくださった皆さま、反応くださった皆さま 本当にありがとうございます^ ^ 2020.06.27 『SS・ふたりの世界』追加 Twitter↓ @rurunovel

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

処理中です...