多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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忘れていた恋の記憶

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 ドクドクと心臓が鳴る。もちろん、デカくて見るからに高そうな皿を落としかけたせいもあるが、多分それだけではない。

『奏、好きだ』

 真摯な誠実な言葉だった。第一、ユウリはそんな冗談を言う奴ではない。

 だからこそ、信じられなかった。俺は夢に夢を見るなんの才能もない平凡な男、いや、それ以下なのかもしれない。

 彼氏に浮気され、浮気相手に脅され運の尽きもここまで悪いかと自分でも思う。

 対してユウリは、俺とは比べ物にならないくらいに立派な男である。

 単身でイタリアへと渡り、厳しすぎるが故に毎日胃が痛くなりながらも修行を積み重ね、日本でシェフとしてオーナーとして成功している。

 外見は言わずもがな、性格もこの通り最高すぎる男だ。

 なのに、何故俺なんだ。俺なんかを好きなんだ。

 何回考えても答えは見つからない。けれども、それをユウリ本人に聞く勇気だってない。

「それで?奏くんは今、何に悩んでるのかな?」

「え、何にってもちろん、克巳とのこと」

「違う違う。この期に及んでまだ誤魔化そうとしてる?」

 …やはり良樹は騙せない。

「実は俺、ユウリに告白された」

「うん。そっか、ついにユウリさん言ったんだ」

 どうも会話が噛み合っていない気がした。良樹にはユウリが元カレだったことしか伝えていない。なのにそれではまるで、何かを知っているようだ。

 困惑した顔で言葉を失っていると、良樹が言う。

「実は俺、ユウリさんに相談されてたの。いつものバーで」

 聞けば良樹とユウリはあれから度々、飲みに行く仲になっていたそうで、俺たちが出会ったバーにもよく足を運んでいたらしい。

 そこで、ユウリからの相談、つまりユウリが俺のことを好きだと聞いたという。

「…もしかして二週間前くらいにバーにいた?二人で」

「ん?ああ~いたかな?なんで?」

 やっぱり、と思いながらもあの時の自分の勝手な判断に赤面してしまいそうだった。

 観念してあの日のことをかいつまんで話すと、良樹が盛大に笑い出す。
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