多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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恋じゃないなら、何だったのか

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「な、に言ってんだよ。そんなこと、してねーよ」

「してる」

 してねーよ。そう言ったつもりの声が、ユウリの肩に吸い込まれる。

 …なんでユウリにはバレちゃうんだろう。克巳には、バレないのに。

「奏はいつも頑張り過ぎて追い詰めて自己完結するよね。それに実は世間体を何よりも大事にしている」

「そ、れは…」

「そうでしょ?だけど、実は相手のためだったりもする」

 耳元で低く優しく響くユウリの声が、頑なに閉ざされた心を解していくようで、解されないようにと必死で広い背中にしがみつく。

 だって嫌なんだ。俺のせいで誰かが、大事な人が傷つくのは。

 親にゲイだとバレたのは、高校生のころだった。

 原因は完全に自分の落ち度で、付き合うことに憧れ一度だけ先輩とそういう関係になりかけたことがあった。

 その先輩と手を繋いで歩いている姿を、母親が見てしまったのだ。

「なんでうちの子が!私が悪かったんだわ」
「いや、お前は悪くない。俺の育て方が」

 互いに責任を押し付け合う両親の声。まるで、俺が俺であることを否定されたようなあの感覚は、いまだに忘れることはできない。

 だからユウリも克巳も、傷つけたくなかった。

 ただ、守りたかったんだ。

「わからねーんだ。どうすれば、守れるのか」

 言いながら違うと心で叫ぶ。わかってはいるんだ、克巳と別れればいい。そうすれば俺は大事な人を守れる。

「嘘。奏はわかってるよ。だけど、そうしたくもないと思ってる。違う?」

「なんで、ユウリが言う…」

「ごめんね?つい、口が滑っちゃった」

 笑いながらユウリが言ったせいで目の前の逞しい胸が僅かに揺れるのを見ながら、ユウリが口走った意味に気がつく。

 ユウリは気が付いているのだ、俺がユウリと別れたことに、その方法を取るしかなかった自分に悔いていることを。

「…また、自分が後悔するのは嫌だ」

「…うん。そうだね」

「ちゃんと、自分で考えて、答え出したいんだ」

「うん、いいと思うよ。だけど…」

 優しく頷かれる声に安心していると、ふと珍しくユウリが言い淀んだ。

 すると、抱きしめられていた腕を解き、額と額をこつんとぶつけ合わせてきた。

「僕のことも、考えてくれるかな?」

「え?それ、どういう意味」

「僕なら奏のこと幸せにできるよ。それに奏なら僕のことも幸せにしてくれる」

「ユウリ、お前、それって」

「こんな時にごめん。奏のことが好きだ。あの頃からずっと」
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