多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

文字の大きさ
上 下
59 / 102
恋じゃないなら、何だったのか

(7)

しおりを挟む
 それから俺は、ぽつりぽつりと非現実的な現実を話していた。

 話しながら自分でも本当に自分に起きたことなのかと、疑いながらも真剣な眼差しのユウリがそれを現実だと言い聞かせてくれていた。

「そっか。それは、大変だったね」

「…まあ、元はと言えば俺が些細なことで家出なんかしたからだよな。自業自得だ」

「それは違うよ、奏。奏にとってそれは、一番大切にしたかったことだろう。昔も今も」

 握られた手が暖かかった。その体温は昔と変わらないなと、ユウリが言う昔の記憶を辿る。

 思えば俺は、昔も同じことにこだわっていた。

 付き合って何ヶ月はもちろん、初めてデートした日や手を繋いだ日、キスをした日までもを記念日にしたがっていた。

 そうすることで恋人らしさを演出したかったし、俺の愛を伝えられる唯一の手段であると信じていたのだ。

 ユウリはそれを嫌がったことは一度もなかった。それどころか、楽しい嬉しいと一緒になって騒いでくれた。

 それが俺にはすごく嬉しかったんだ。

 だからこだわっていたのだろうか。克巳にもそう同じように返してくれるだろうと、どこかで信じ切っていたのかもしれない。

「だから奏は悪くない。…奏は今、一番どうしたい?」

 優しい手で背中を摩られる。どうしたいか、正直わからない。

 東雲先生の言うように、俺たちの関係はリスクが伴う。いつ、誰にバレてもおかしくはない。

 …第一、俺は克巳を本当の意味で好きなのだろうか。

「わかんない。わかんないけど、どうにかしなくちゃ」

 恐ろしい想像が頭を過った気がして、笑いながら誤魔化すようにそう言った。

「ってかさ、俺って昔から優柔不断?みたいなとこあるからさ。こういうの正直、どうしたらいいかわかんないんだよなぁ」

「奏」

「良樹ならどうすんだろ。あいつのことだからキレて出てけとか言うのかな?」

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。優しい温もりが全身に行き届き、じわっとけれど強い力強さを感じる。

「奏、やめよう」

「なに、を?」

「…そんなふうに自分を誤魔化すのだけは、やめない?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

何処吹く風に満ちている

夏蜜
BL
和凰高校の一年生である大宮創一は、新聞部に入部してほどなく顧問の平木に魅了される。授業も手に付かない状態が続くなか、気づけばつかみどころのない同級生へも惹かれ始めていた。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...