多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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恋じゃないなら、何だったのか

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 それから俺は、ぽつりぽつりと非現実的な現実を話していた。

 話しながら自分でも本当に自分に起きたことなのかと、疑いながらも真剣な眼差しのユウリがそれを現実だと言い聞かせてくれていた。

「そっか。それは、大変だったね」

「…まあ、元はと言えば俺が些細なことで家出なんかしたからだよな。自業自得だ」

「それは違うよ、奏。奏にとってそれは、一番大切にしたかったことだろう。昔も今も」

 握られた手が暖かかった。その体温は昔と変わらないなと、ユウリが言う昔の記憶を辿る。

 思えば俺は、昔も同じことにこだわっていた。

 付き合って何ヶ月はもちろん、初めてデートした日や手を繋いだ日、キスをした日までもを記念日にしたがっていた。

 そうすることで恋人らしさを演出したかったし、俺の愛を伝えられる唯一の手段であると信じていたのだ。

 ユウリはそれを嫌がったことは一度もなかった。それどころか、楽しい嬉しいと一緒になって騒いでくれた。

 それが俺にはすごく嬉しかったんだ。

 だからこだわっていたのだろうか。克巳にもそう同じように返してくれるだろうと、どこかで信じ切っていたのかもしれない。

「だから奏は悪くない。…奏は今、一番どうしたい?」

 優しい手で背中を摩られる。どうしたいか、正直わからない。

 東雲先生の言うように、俺たちの関係はリスクが伴う。いつ、誰にバレてもおかしくはない。

 …第一、俺は克巳を本当の意味で好きなのだろうか。

「わかんない。わかんないけど、どうにかしなくちゃ」

 恐ろしい想像が頭を過った気がして、笑いながら誤魔化すようにそう言った。

「ってかさ、俺って昔から優柔不断?みたいなとこあるからさ。こういうの正直、どうしたらいいかわかんないんだよなぁ」

「奏」

「良樹ならどうすんだろ。あいつのことだからキレて出てけとか言うのかな?」

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。優しい温もりが全身に行き届き、じわっとけれど強い力強さを感じる。

「奏、やめよう」

「なに、を?」

「…そんなふうに自分を誤魔化すのだけは、やめない?」
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