多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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恋じゃないなら、何だったのか

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 平日の飲食店が比較的、融通が効くと知ったのは皮肉にもこれが初めてだった。

 そして、俺が平日であるにも関わらず、仕事を休んでしまったのもまた、初めてのことだ。

「熱、下がらないね。やっぱり病院行こう?」

「…いや、大丈夫。ただの疲労だ」

 脇から取った体温計を見て不安そうに言うユウリに、僅かに微笑む。

 昨夜、我に返った俺を引き留めるようにしてホテルに駆けつけてくれたユウリを目の前に、俺は高熱を出したようだった。

 というのは、気が付いたのは今朝方のことで昨夜の記憶があまり鮮明ではないためだ。

 身体が火照る、熱い。けれど、ユウリのひんやりとした手が気持ち良くて、もっと撫でてほしいとすら思ってしまう。

 ユウリが店を休んだと知ったのは、それからしばらくした昼過ぎのことだった。

「ユウリごめん。店、戻っていいぞ」

「…それより奏。僕に言うことないの?」

「え?あ、あぁ。迷惑かけてごめんな?つい、ユウリに頼っちまって。もうこんなことないようにするからさ。」

「そうじゃなくてさ!」

 驚いた。ユウリが大声を出したのは、これで二度目だ。

 一度目は俺たちが別れるきっかけとなったあの時ー。

「なんで別れるなんて言うんだ、奏!」

 当時、22歳の俺はとにかく、世間の目、一般論に怯えていた。

 ゲイてある自分も自分と付き合っているユウリも、世間ではどう言われるのかとても怖かった。

「だから、言ったろ?イタリアと日本なんて遠距離すぎるって。無理だろ、普通に考えて」

「それでも僕は、奏となら試してみたいよ」

「なんで?だってどう考えたって確証がないだろ?うまく行く確証が!」

 ある意味、防御策だった。自分を守りたい、守ってやらなければならないと思っていた。

 当時はまだ、個々に応じたセクシャリティをなんて認められる時代ではなかった。

 故に俺は敏感に囁かれる自分たちの噂をキャッチしていた。

 ユウリが俺に染められたー。

 それを耳にした途端、猛烈な怒りと同時に自分に対するやるせなさを感じた。

 何故、自分は女じゃないのか。何故、ノンケのユウリが俺と付き合うことになってしまったのか。
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