多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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恋だと思っていたものと、そうじゃなかったもの

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 新学期の九月。といえば、暑すぎて溶けそうだった夏が過ぎ、ようやく涼しい風が舞い込んでくるような気さえしてくるが、実際には真夏と変わらない酷暑だ。

 もちろん、生徒たちも教員でさえも、茹だる暑さに新学期の爽やかさは感じられない。

「油井先生~こっち手伝ってもらえますかぁ?」

「あ、は、はい。今、行きます」

 けれども、東雲先生特有の伸びる語尾は相変わらずで、不快なそれが俺を日常に引き戻してくれるなんて、皮肉なものである。

「結局、東雲先生と油井先生って付き合ってる?」

 多崎先生がこそっと耳打ちをしてくる。

「…さあ?知らないですね」

 冷たく聞こえたかも、と後悔しながらもそう言ったのは、俺と克巳の、というより俺の克巳に対する気持ちの変化があったからだ。

 あの日、力任せに掴まれ、引き摺られるように連れて行かれた部屋は、やはり気味の悪い何かが蔓延していた。

「待って、克巳!なんなんだよ!」

「それはッ…!こっちのセリフだよ!」

 強く掴まれた腕を振り切りそう言えば克巳も語尾を荒くして反論する。

「大体、言ったよね、俺。帰る時もどこか行く時も連絡してって」

「それは、ごめん。急に決まったことだったから」

「…まあいいよ、それは。けど、なんであの人がいるの」

 克巳が言うあの人とは、ユウリのことだろう。以前、俺にユウリのことを聞いてきた時と口調が同じだ。

「…良樹に誘われて行ったらユウリがいただけだ。嘘じゃない」

「けど、随分と長く一緒にいたんだね、ユウリさんと」

 克巳の言葉に俺は言い知れない違和感を覚える。

 随分と、ということを知っているのは、その場にいた俺か良樹かユウリしか知らないはずだ。

 なのに、どうして克巳が知っている。

「…なんで知ってんの。俺たちがあそこに長くいたこと」

 いいだけ飲んだせいで胃から込み上げそうだったものも酔いもいつのまにか消え、代わりに震える声が無音の部屋に響く。

 嫌な想像が頭を過っていた。まさか克巳に限って、いや、いくらなんでもそこまではと言い聞かせながら、それでも手はポケットの中にある携帯を弄りたくてしょうがない。

 その手を辞めさせたのは、意外にも克巳の声だった。

 けれどそれは、俺を絶望させる。

「だってまた奏がいなくならないように、確認しておかないといけないから。」

 嫌な予感が的中した瞬間だった。
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