47 / 102
恋だと思っていたものと、そうじゃなかったもの
(1)
しおりを挟む
新学期の九月。といえば、暑すぎて溶けそうだった夏が過ぎ、ようやく涼しい風が舞い込んでくるような気さえしてくるが、実際には真夏と変わらない酷暑だ。
もちろん、生徒たちも教員でさえも、茹だる暑さに新学期の爽やかさは感じられない。
「油井先生~こっち手伝ってもらえますかぁ?」
「あ、は、はい。今、行きます」
けれども、東雲先生特有の伸びる語尾は相変わらずで、不快なそれが俺を日常に引き戻してくれるなんて、皮肉なものである。
「結局、東雲先生と油井先生って付き合ってる?」
多崎先生がこそっと耳打ちをしてくる。
「…さあ?知らないですね」
冷たく聞こえたかも、と後悔しながらもそう言ったのは、俺と克巳の、というより俺の克巳に対する気持ちの変化があったからだ。
あの日、力任せに掴まれ、引き摺られるように連れて行かれた部屋は、やはり気味の悪い何かが蔓延していた。
「待って、克巳!なんなんだよ!」
「それはッ…!こっちのセリフだよ!」
強く掴まれた腕を振り切りそう言えば克巳も語尾を荒くして反論する。
「大体、言ったよね、俺。帰る時もどこか行く時も連絡してって」
「それは、ごめん。急に決まったことだったから」
「…まあいいよ、それは。けど、なんであの人がいるの」
克巳が言うあの人とは、ユウリのことだろう。以前、俺にユウリのことを聞いてきた時と口調が同じだ。
「…良樹に誘われて行ったらユウリがいただけだ。嘘じゃない」
「けど、随分と長く一緒にいたんだね、ユウリさんと」
克巳の言葉に俺は言い知れない違和感を覚える。
随分と、ということを知っているのは、その場にいた俺か良樹かユウリしか知らないはずだ。
なのに、どうして克巳が知っている。
「…なんで知ってんの。俺たちがあそこに長くいたこと」
いいだけ飲んだせいで胃から込み上げそうだったものも酔いもいつのまにか消え、代わりに震える声が無音の部屋に響く。
嫌な想像が頭を過っていた。まさか克巳に限って、いや、いくらなんでもそこまではと言い聞かせながら、それでも手はポケットの中にある携帯を弄りたくてしょうがない。
その手を辞めさせたのは、意外にも克巳の声だった。
けれどそれは、俺を絶望させる。
「だってまた奏がいなくならないように、確認しておかないといけないから。」
嫌な予感が的中した瞬間だった。
もちろん、生徒たちも教員でさえも、茹だる暑さに新学期の爽やかさは感じられない。
「油井先生~こっち手伝ってもらえますかぁ?」
「あ、は、はい。今、行きます」
けれども、東雲先生特有の伸びる語尾は相変わらずで、不快なそれが俺を日常に引き戻してくれるなんて、皮肉なものである。
「結局、東雲先生と油井先生って付き合ってる?」
多崎先生がこそっと耳打ちをしてくる。
「…さあ?知らないですね」
冷たく聞こえたかも、と後悔しながらもそう言ったのは、俺と克巳の、というより俺の克巳に対する気持ちの変化があったからだ。
あの日、力任せに掴まれ、引き摺られるように連れて行かれた部屋は、やはり気味の悪い何かが蔓延していた。
「待って、克巳!なんなんだよ!」
「それはッ…!こっちのセリフだよ!」
強く掴まれた腕を振り切りそう言えば克巳も語尾を荒くして反論する。
「大体、言ったよね、俺。帰る時もどこか行く時も連絡してって」
「それは、ごめん。急に決まったことだったから」
「…まあいいよ、それは。けど、なんであの人がいるの」
克巳が言うあの人とは、ユウリのことだろう。以前、俺にユウリのことを聞いてきた時と口調が同じだ。
「…良樹に誘われて行ったらユウリがいただけだ。嘘じゃない」
「けど、随分と長く一緒にいたんだね、ユウリさんと」
克巳の言葉に俺は言い知れない違和感を覚える。
随分と、ということを知っているのは、その場にいた俺か良樹かユウリしか知らないはずだ。
なのに、どうして克巳が知っている。
「…なんで知ってんの。俺たちがあそこに長くいたこと」
いいだけ飲んだせいで胃から込み上げそうだったものも酔いもいつのまにか消え、代わりに震える声が無音の部屋に響く。
嫌な想像が頭を過っていた。まさか克巳に限って、いや、いくらなんでもそこまではと言い聞かせながら、それでも手はポケットの中にある携帯を弄りたくてしょうがない。
その手を辞めさせたのは、意外にも克巳の声だった。
けれどそれは、俺を絶望させる。
「だってまた奏がいなくならないように、確認しておかないといけないから。」
嫌な予感が的中した瞬間だった。
2
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
何処吹く風に満ちている
夏蜜
BL
和凰高校の一年生である大宮創一は、新聞部に入部してほどなく顧問の平木に魅了される。授業も手に付かない状態が続くなか、気づけばつかみどころのない同級生へも惹かれ始めていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる