多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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それは恋だと思っていた

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「奏?本当に大丈夫かい?」

 喉が焼けるように痛い。さっきの酒のせいだろうか。

 蒸せるようなアルコールの味と共に、言わないと決めた言葉たちが込み上げてくる。

 ただ、苦しかった。ただ俺は、油井 克巳という男を好きになっただけだった。

 出会った時から不思議と目が離せない、離せられない男を知れば知るほど、それこそ真面目で不器用そうなとこがそのまんまのところも、好きだった、大好きだったんだ。

 なのに今、大好きな男の手を自ら離そうとしているのは何故なのだろう。

「ユウリ、俺」

 焼け付く喉を精一杯に広げ、しゃがれた声を上げた。

「奏、こんなとこにいたんだ」

 その瞬間、広げたはずの喉がヒュッと細く狭く縮まるかのように、声までもが音にならずに宙を舞った。

 背後から抱きしめる腕の力に、鳥肌が立つ。

「克巳…?なんで、ここに…」

 恐る恐る、まるでオイルの切れかけたロボットのように後ろを振り向く。

 瞬間、潰れるほどに酔っていた頭がすっと冷めた気がした。

 目に映る人物に俺は戸惑っていたからだ。

 声も抱きしめる温もりも全て馴染んだものなのに、目に映った姿がまるで知らない人のようだ。

 もさかった髪から短髪になり、そして今はその短髪をワックスか何かで後ろに固めて額を丸出しにしている。

「探したよ?奏。全然帰って来ないから心配しちゃった」

「え?だって、今日は克巳、出掛けるって」

「あんなのすぐ終わるに決まってるよ。最後まで話聞かないから、奏は」

 嘘だろ、そんなの。克巳らしき人物が話すことを聞き流しながら、俺はただ、混乱するばかりだ。

 昨日のいざこざの発端は、克巳が今日出掛けることだった。

 ただ出掛けるだけならまだ良かった。内気な克巳だって誰だって友人はいる。

 けれど、俺が憤っていたのは克巳が出掛けるのに俺は出掛けてはいけないということ。

 理由を聞けば、「だってまた、帰って来なくなったら困るから」と言うのだ、いい加減に勘弁して欲しい。

 しかも、克巳が帰ってくるまでに夕飯を用意しておけとまで言われる始末だ。

 いつの時代だよ、と突っ込みたくなるほど、克巳の亭主関白ぶりはエスカレートしている。
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