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それは恋だと思っていた
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ドキリ、と心臓が音を立てた。そういえばユウリにはこの前の電話でそれらしいことを話していたのだ。
けれども、克巳と俺のことにユウリを巻き込むべきではないと、俺は「知ってたよ、大丈夫。」と被りを振る。
「そうなの?彼氏さんは大丈夫だった?」
「ああ、全然大丈夫。良樹も一緒だって言ったから」
真っ赤な嘘を吐いたのが今から数時間前のことだった。
隣を見れば良樹は何杯飲んだのか、珍しく酒に飲まれて上半身をカウンターにべたっとくっつけてしまっていた。
在宅プログラマーを生業にしていると、同時に複数の仕事を受注することもあるらしく、最近は寝る暇もなかったと言っていた。
そのせいもあり、今日の良樹はいつもよりぶっ飛んでいるように見える。
そして俺自身もー。
「奏?そろそろ帰ろうか」
「いや、だ…帰りたくない…」
ユウリの低音が耳に優しく響く。昔と変わらないその声に俺はまた、身を委ねたくなる。
「ん~困ったなぁ。奏、彼氏さんに連絡して?」
「…なんで?」
「なんでって、迎えに来てもらうからだよ?」
迎えに、彼氏に。ユウリは当たり前のように変わらず優しくそう問いかけてくれるが、俺はその言葉に顔を顰める。
克巳のところに帰りたくない、つい酔った勢いで口から出た言葉は本音だ。
昨日克巳との間に起こったいざこざを思い出し、また胸がムカムカして、グラスに残っていた透明な酒を一気に煽った。
「奏、なんかあったのかい?」
俺のその態度に諦めたように、ユウリが聞いてくる。
…それはやっぱり反則だ。
ユウリの透き通るような緑色の瞳が垂れ下がり、心配そうに俺を見る。
全てぶちまけてしまいたくなった。
克巳の束縛のことも、克巳は誰とどこにいても良くて俺はダメだという理不尽さも、克巳が好きなのにそんな克巳を受け止められないことも、全部全部、言ってしまいたい。
そうすれば何か答えが見えるのかもしれない、もしくは自分で見つけることから目を背けていた何かを見つけられるかもしれない。
ユウリならきっと、きっと俺が欲しい言葉で背中を押してくれる。
けれども、克巳と俺のことにユウリを巻き込むべきではないと、俺は「知ってたよ、大丈夫。」と被りを振る。
「そうなの?彼氏さんは大丈夫だった?」
「ああ、全然大丈夫。良樹も一緒だって言ったから」
真っ赤な嘘を吐いたのが今から数時間前のことだった。
隣を見れば良樹は何杯飲んだのか、珍しく酒に飲まれて上半身をカウンターにべたっとくっつけてしまっていた。
在宅プログラマーを生業にしていると、同時に複数の仕事を受注することもあるらしく、最近は寝る暇もなかったと言っていた。
そのせいもあり、今日の良樹はいつもよりぶっ飛んでいるように見える。
そして俺自身もー。
「奏?そろそろ帰ろうか」
「いや、だ…帰りたくない…」
ユウリの低音が耳に優しく響く。昔と変わらないその声に俺はまた、身を委ねたくなる。
「ん~困ったなぁ。奏、彼氏さんに連絡して?」
「…なんで?」
「なんでって、迎えに来てもらうからだよ?」
迎えに、彼氏に。ユウリは当たり前のように変わらず優しくそう問いかけてくれるが、俺はその言葉に顔を顰める。
克巳のところに帰りたくない、つい酔った勢いで口から出た言葉は本音だ。
昨日克巳との間に起こったいざこざを思い出し、また胸がムカムカして、グラスに残っていた透明な酒を一気に煽った。
「奏、なんかあったのかい?」
俺のその態度に諦めたように、ユウリが聞いてくる。
…それはやっぱり反則だ。
ユウリの透き通るような緑色の瞳が垂れ下がり、心配そうに俺を見る。
全てぶちまけてしまいたくなった。
克巳の束縛のことも、克巳は誰とどこにいても良くて俺はダメだという理不尽さも、克巳が好きなのにそんな克巳を受け止められないことも、全部全部、言ってしまいたい。
そうすれば何か答えが見えるのかもしれない、もしくは自分で見つけることから目を背けていた何かを見つけられるかもしれない。
ユウリならきっと、きっと俺が欲しい言葉で背中を押してくれる。
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