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それは恋だと思っていた
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「奏~飲んでんの~?」
「飲んでるって。良樹こそ~」
「二人とも、そろそろセーブしとかないと」
ユウリの声が朧げに聞こえる、ということは酔っ払ったのか。
揺れる視界の中に映る端正で彫りの深いユウリが心配そうに見守る顔に、他人事のようにそんなことを思う。
事は遡る事数時間前。金曜日の仕事上がりに加えて、夏のコンクールも無事に終えた俺は些か浮き足立つ気持ちで帰路に着こうとしていた。
「良樹、おつかれ。電話なんて珍しいな」
学校を出てすぐに掛かってきた電話の主の良樹
にそう言うのは、電話を苦手とする良樹だからこそだった。
良樹曰く、顔が見えない相手との会話こそ恐ろしいものはないらしく、それ故に在宅プログラマーの仕事を選んだのだそう。
「おつかれ~奏。突然で悪いけど、今から飲みに行かない?」
「え、今から?」
「そう、今から!じゃ、いつものバーに集合で!」
唐突すぎるだろう。若干呆れながらも俺は唐突すぎる誘いに、久しぶりに生き生きと足を弾ませていたのだが。
「やあ、奏。久しぶりだね」
…まさかユウリもいるなんて、聞いてないぞ。
あれ以来、克巳の束縛は日に日に強いものに変わっていた。
いつ帰るかだけではなく、休日や仕事上がりに誰とどこに行くかまで報告するように強いられているのだ。
さすがにそれはやり過ぎだと嗜めたこともあった。だが、克巳が「ごめん、でも気になるから。」としょげた顔で言うのだから仕方ない。
自分でもわかる、俺はそういう奴に弱い。
しかし、ユウリを目の前に怒りを露わにする訳にもいかず、けれども心のどこかではこの再会を嬉しいと感じている。
「奏、まだジントニック好き?」
「ああ、うん、好きかな」
「じゃあジントニック二つでお願いします」
見れば良樹は既に葡萄色をした酒、おそらくカシスオレンジを飲んでおり、ユウリが気を遣って俺の分まで頼んでくれたようだった。
「今日は大丈夫だった?」
「え?何が?」
「とぼけなくていいよ。奏、今日僕がいること知らなかったんでしょ」
「飲んでるって。良樹こそ~」
「二人とも、そろそろセーブしとかないと」
ユウリの声が朧げに聞こえる、ということは酔っ払ったのか。
揺れる視界の中に映る端正で彫りの深いユウリが心配そうに見守る顔に、他人事のようにそんなことを思う。
事は遡る事数時間前。金曜日の仕事上がりに加えて、夏のコンクールも無事に終えた俺は些か浮き足立つ気持ちで帰路に着こうとしていた。
「良樹、おつかれ。電話なんて珍しいな」
学校を出てすぐに掛かってきた電話の主の良樹
にそう言うのは、電話を苦手とする良樹だからこそだった。
良樹曰く、顔が見えない相手との会話こそ恐ろしいものはないらしく、それ故に在宅プログラマーの仕事を選んだのだそう。
「おつかれ~奏。突然で悪いけど、今から飲みに行かない?」
「え、今から?」
「そう、今から!じゃ、いつものバーに集合で!」
唐突すぎるだろう。若干呆れながらも俺は唐突すぎる誘いに、久しぶりに生き生きと足を弾ませていたのだが。
「やあ、奏。久しぶりだね」
…まさかユウリもいるなんて、聞いてないぞ。
あれ以来、克巳の束縛は日に日に強いものに変わっていた。
いつ帰るかだけではなく、休日や仕事上がりに誰とどこに行くかまで報告するように強いられているのだ。
さすがにそれはやり過ぎだと嗜めたこともあった。だが、克巳が「ごめん、でも気になるから。」としょげた顔で言うのだから仕方ない。
自分でもわかる、俺はそういう奴に弱い。
しかし、ユウリを目の前に怒りを露わにする訳にもいかず、けれども心のどこかではこの再会を嬉しいと感じている。
「奏、まだジントニック好き?」
「ああ、うん、好きかな」
「じゃあジントニック二つでお願いします」
見れば良樹は既に葡萄色をした酒、おそらくカシスオレンジを飲んでおり、ユウリが気を遣って俺の分まで頼んでくれたようだった。
「今日は大丈夫だった?」
「え?何が?」
「とぼけなくていいよ。奏、今日僕がいること知らなかったんでしょ」
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