多分、愛じゃない

それは恋以外の何者でもない

(１０)

　記念に撮ろうよ、何の記念だよ、そうたわいもない会話をしながら撮った。多分、良樹が目にしたのはこの時のものだろう。

　けれど、どうしてという疑問が消えてくれない。だってあれはもう何年も前のものだ、しかも自分たちは恋人関係を解消していた。

　…嫌、ダメだ。これ以上は深入りしたらいけないと、本能が語りかけている。

「でも奏が知ったら気にするから、秘密にしてくれませんかって言うんだよぉ？もう愛だなって思うしかないよねぇ」

　なのに、良樹が発破をかけるものだから、深い湖の淵に足を入れてしまう。

「だからぁ、奏。無理しなくてもいいんだよ？」

　無理、しているつもりは一切なかった。けれど、改めてそう言われてしまえばそうなのかもしれないという感覚が俺を襲う。

　克巳が好きだ、間違いなく。そうじゃなければ結婚もできないというのに同棲なんかしていない。

　ユウリが好きだった。しかし、それは昔の話で今の話ではない。

　ゴタゴタしていたがようやく、元あった場所に戻れたんだ。これ以上の普通はないだろう。

　心からそう思っている、なのに心が騒ついている。

　これ以上、深い湖に足を踏み入れるべきではないと、慌てて突っ込みかけた足を陸に上げた。