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それは恋以外の何者でもない
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学生にとっての魔のテスト期間が終わり、校内は失われていた活気を取り戻している。
「戸崎先生、今日もいつものメニューでいいですか?」
「ああ、いいよ。始めててくれ」
そう言えば、長い髪の毛を後ろの高い位置に束ねた女子生徒が元気良く、はいと言いながら小走りで去っていく。
いくらテスト期間で楽器に触れられなかったからとは言え、廊下を走るのは勘弁してくれよ。
かつて学生だった頃、自分もあの女子生徒のように浮き足立つ気持ちで音楽室に向かっていたことを思い出しながら、呆れたように笑っていた。
今日は外部講師が来る日、ということは早々に事務仕事を切り上げるべきかと、机上の書類を片し始める。
顧問を務める吹奏楽部は、部員30名のこじんまりとした部活だ。
それ故、大きな大会の人数規定に当てはまらないが代わりに小団体の大会に向けて頑張りを見せている。
特に今は、中体連や一年に一度、全吹奏楽部員が命を賭けていると言っても過言ではないほどの夏のコンクールへと、学生の熱意は高まっている。
かくいう俺も、学生ほどではないが熱意の高まりはそれなりにあるようで、事務仕事の合間にコンクール 必勝法などと調べるくらいではある。
「こんにちは、戸崎先生」
「こんにちは。ご足労いただいてありがとうございます」
社交辞令を互いに交わし、古臭い階段を登るのは外部講師の藤原さんだ。
藤原さんと出会ったのは2年前。コンクールで入賞したいという生徒の熱意に応えられない自分に打ちひしがれていた時、偶然にも母校に遊びに寄った彼女と出会った。
世話になったという先生たちとの交流の末、とある先生の一言で我が校の外部講師になってくれるという話になったのだ。
『運命だよね?』と、良樹が言った言葉が急に蘇る。
国語教師なら目に見えない普遍的なものを好む人は多い。たとえば、文中の人物の心の揺れ動きを表現しなさいみたいな。
残念ながら俺にはその才能はないようで、目に見えるものしか信じられない。
けれど、今思い返してみれば藤原さんとの出会いは最早運命と言い表す方がしっくり来る気もしてきた。
「戸崎先生、今日もいつものメニューでいいですか?」
「ああ、いいよ。始めててくれ」
そう言えば、長い髪の毛を後ろの高い位置に束ねた女子生徒が元気良く、はいと言いながら小走りで去っていく。
いくらテスト期間で楽器に触れられなかったからとは言え、廊下を走るのは勘弁してくれよ。
かつて学生だった頃、自分もあの女子生徒のように浮き足立つ気持ちで音楽室に向かっていたことを思い出しながら、呆れたように笑っていた。
今日は外部講師が来る日、ということは早々に事務仕事を切り上げるべきかと、机上の書類を片し始める。
顧問を務める吹奏楽部は、部員30名のこじんまりとした部活だ。
それ故、大きな大会の人数規定に当てはまらないが代わりに小団体の大会に向けて頑張りを見せている。
特に今は、中体連や一年に一度、全吹奏楽部員が命を賭けていると言っても過言ではないほどの夏のコンクールへと、学生の熱意は高まっている。
かくいう俺も、学生ほどではないが熱意の高まりはそれなりにあるようで、事務仕事の合間にコンクール 必勝法などと調べるくらいではある。
「こんにちは、戸崎先生」
「こんにちは。ご足労いただいてありがとうございます」
社交辞令を互いに交わし、古臭い階段を登るのは外部講師の藤原さんだ。
藤原さんと出会ったのは2年前。コンクールで入賞したいという生徒の熱意に応えられない自分に打ちひしがれていた時、偶然にも母校に遊びに寄った彼女と出会った。
世話になったという先生たちとの交流の末、とある先生の一言で我が校の外部講師になってくれるという話になったのだ。
『運命だよね?』と、良樹が言った言葉が急に蘇る。
国語教師なら目に見えない普遍的なものを好む人は多い。たとえば、文中の人物の心の揺れ動きを表現しなさいみたいな。
残念ながら俺にはその才能はないようで、目に見えるものしか信じられない。
けれど、今思い返してみれば藤原さんとの出会いは最早運命と言い表す方がしっくり来る気もしてきた。
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