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かつてそれは恋だった
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一方的に別れを切り出したのは俺で、耐える力も何もかもが欠けていた俺を憎んでいると思っていた。
なのに、ユウリは、ユウリは。
「まじかよ、お前…」
「まじかよってどういう意味だっけ?って、奏、なんで泣いてる?」
「…意味なんてないさ。ところでユウリ、まだ時間大丈夫?」
それから俺たちはいろんな話をした。
イタリアに帰ったはいいが、やたらと彫りの深いイタリアンシェフの扱きがキツく何度も志半ばで挫けそうになっただとか、時々は日本食が恋しくなって納豆と味噌の取り寄せ方を調べただとか。
一方で俺も、多感な中学生に振り回されたり舐められたりした苦い過去や、初めて作ったテスト問題を主任教諭にボロクソにダメ出しされたこと。
俺が淹れた紅茶を片手に話すのは、紛れもなく互いの思いだしたくない過去ばかりだ。
出来ることならその何年間かは記憶からすっぽりと消し去ってしまいたいと、誰もが思う瞬間。
けれど不思議にも、ユウリも俺も笑っていた。
笑いながらあんな時もあった、こんなこともあったんだと、まるで本に出てくる架空の人物の物語を読み上げているよう。
涙が目尻に滲むまで笑ったのはいつぶりだろうか。
思えば、克巳と知り合ってからも付き合ってからも、眉間に皺を寄せていることが多かった気がする。
『奏、怒ってる?』
事あるごとにゲームのセリフのように克巳が言う、その言葉がとてつもなく嫌いだった。
怒っていたのかもしれない、だけど怒っている訳ではない。
ただ、わかって欲しかったんだ。俺がお前のことをどれだけ好きでだからどうして欲しいのかを。
「奏?疲れちゃった?」
「いや、大丈夫」
駄目だろ、今は克巳のことを考えちゃ。気を取りなおすようにソファから立ち上がり、キッチンに向かった。
水を入れたやかんから蒸気が噴き出す。その様子をぼんやりと見つめながら、今度は笑い泣きじゃない涙が滲み出てきたのを感じていた。
最近の俺は情緒不安定だ、何だって今、仮にも数年ぶりに会う元カレの前で泣こうとしてるんだよ。
これじゃあまるで、慰めてほしいと言っているようなものだ。
違う、そうじゃない、そう言い聞かせながらも湯気は滲むばかりで更には頬が温かくなる始末。
「もうお湯、沸いてるよ?」
なのに、ユウリは、ユウリは。
「まじかよ、お前…」
「まじかよってどういう意味だっけ?って、奏、なんで泣いてる?」
「…意味なんてないさ。ところでユウリ、まだ時間大丈夫?」
それから俺たちはいろんな話をした。
イタリアに帰ったはいいが、やたらと彫りの深いイタリアンシェフの扱きがキツく何度も志半ばで挫けそうになっただとか、時々は日本食が恋しくなって納豆と味噌の取り寄せ方を調べただとか。
一方で俺も、多感な中学生に振り回されたり舐められたりした苦い過去や、初めて作ったテスト問題を主任教諭にボロクソにダメ出しされたこと。
俺が淹れた紅茶を片手に話すのは、紛れもなく互いの思いだしたくない過去ばかりだ。
出来ることならその何年間かは記憶からすっぽりと消し去ってしまいたいと、誰もが思う瞬間。
けれど不思議にも、ユウリも俺も笑っていた。
笑いながらあんな時もあった、こんなこともあったんだと、まるで本に出てくる架空の人物の物語を読み上げているよう。
涙が目尻に滲むまで笑ったのはいつぶりだろうか。
思えば、克巳と知り合ってからも付き合ってからも、眉間に皺を寄せていることが多かった気がする。
『奏、怒ってる?』
事あるごとにゲームのセリフのように克巳が言う、その言葉がとてつもなく嫌いだった。
怒っていたのかもしれない、だけど怒っている訳ではない。
ただ、わかって欲しかったんだ。俺がお前のことをどれだけ好きでだからどうして欲しいのかを。
「奏?疲れちゃった?」
「いや、大丈夫」
駄目だろ、今は克巳のことを考えちゃ。気を取りなおすようにソファから立ち上がり、キッチンに向かった。
水を入れたやかんから蒸気が噴き出す。その様子をぼんやりと見つめながら、今度は笑い泣きじゃない涙が滲み出てきたのを感じていた。
最近の俺は情緒不安定だ、何だって今、仮にも数年ぶりに会う元カレの前で泣こうとしてるんだよ。
これじゃあまるで、慰めてほしいと言っているようなものだ。
違う、そうじゃない、そう言い聞かせながらも湯気は滲むばかりで更には頬が温かくなる始末。
「もうお湯、沸いてるよ?」
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