多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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かつてそれは恋だった

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 何故なら二人目の低くてハスキーな声は、ユウリのものだったから。

「ただいまって、ユウリがなんでここに?」

 そう問うと、ユウリの代わりに良樹が答えた。

 聞けば良樹は昨日、仕事帰りにといつもは滅多に行かない家からはやや遠いスーパーに行った、そこで偶然にもユウリに会ったそうなのだ。

 ユウリも俺の連れが良樹だったと覚えていたそうで互いに意気投合したらしく、流れるように今日の夕飯を一緒にという話になったと言う。

 …正直なところ、訳がわからない。いくら良樹もユウリもコミニケーションに長けた能力の持ち主だとしても、ほぼ初対面で家に訪れる仲になれるだなんて、同じ人間だとは到底思えない。

 しかも今、気が付いたがやけに広いキッチンに立っているのは、この家の家主ではない。

「何でユウリがキッチンに立ってんだ?」

「それはね、僕が良ければ料理作らせてくださいって言ったからだよ?」

 だからどうしてそうなる、と突っ込みたいところは山々だが、思えばユウリはいつもそうだった。

 大学時代、突然俺の住むアパートを訪れたかと思うと、スーパーの袋満杯に入った食材をぶら下げ、「奏の好きなアクアパッツァ作らせて。」と言ってきたこともある。

 その時も訳がわからなかったけれど、そういえばあのアクアパッツァは狭いキッチンから作られたと思えない絶妙な味だった。

「さあ、ちょうど出来たから食べようよ!」

 立ち尽くしている俺にそう声を掛けたユウリが、出来立ての料理を皿に載せる。

 リビングから丸見えなキッチン、オープンキッチンというらしいが、そのせいで見えるユウリの慣れた手捌きは実に手際良く、そしてどこか懐かしいものがあった。

「じゃあ早速、いただきます!」

 皿に載せられていた料理はサクサクと音が鳴りそうなカツレツにカルボナーラ、水菜とナッツのサラダ、グツグツと音が聞こえそうな牡蠣とほうれん草のグラタン、それから魚介の香りが際立つアクアパッツァ。

「美味い!ね、美味しいよね?って一流シェフに作ってもらってるんだから当たり前なんだけど!」

 良樹が興奮気味にそう言う。確かに良樹の言う通り、ユウリの作った料理は絶品だ。

 けれど俺は、絶品という言葉で表し難い何かに心を奪われていた。

 ユウリが日本に来たのは小学生の頃、父親の仕事の都合でイタリアから家族で日本に渡ってきた。

 当時は日本語も今ほど達者ではなく、同年代のクラスメイトからは散々揶揄われてきたそう。
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