多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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かつてそれは恋だった

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 俺自身も初めての彼氏に浮き足立つ気持ちがあったのだと思う。

 水族館、映画、アウトドアと理想に描く初めてのことはほとんどをユウリと経験した。

 その全てが楽しくて嬉しくて、今でも鮮明に思い出せるほど輝かしい日の連続だったのだ。

 だから、青天の霹靂だった。

「卒業したらイタリアに戻ることにした」

 何で、どうしてとみっともなく縋った。お前、教職につきたくて頑張ってきたんじゃねーのかよと。

 ユウリと別れるなんて夢にも思わない話に、俺は就活間際にだいぶ荒れていた。

 行き慣れないゲイバーに行ったのもこの時が初めてで、いわゆるワンナイトこそしなかったが複数の男性に絡んだりとユウリには辛い思いをさせていたと思う。

 結局、待って欲しいというユウリに待てないと答えを出した結果、別れるに至ったと絶品のアクアパッツァを頬張りながら良樹に話して聞かせた。

「なんだ、じゃあ俺と出会った時もまだ荒れてた時期ってわけだ?」

 ご名答と答えれば良樹は何かを思いついたように目をキラキラさせる。

「ってかさ、嫌いで別れたんじゃないなら全然ありじゃん?むしろ濃厚だわ」

「何が?」

「だから、運命説」

 思わず、はあと深い溜め息が溢れ出ていた。

 良樹は超がつくほどにいい奴だ、それは決して嘘ではないのだが、時々こうやって暴走する癖があるのだ。

「あのさ、良樹も見て分かる通りユウリだよ?イケメンでハイスペックで優しくて気も利く。そんな人を誰が放っておく?」

「たしかに。でもそうとは限らないよね?」

「どういうこと?」

「だから、偶々今、恋人がいない説だってあるよ?だって、日本に帰ってきて慌ただしく店の準備してたんだから全然ありでしょ」

 そう言われたら返す言葉も出ないと、つい考え込んでしまう。

 しかし、いずれにしろ俺の今の彼氏は克巳で俺は克巳が大好きなのだ。

 …克巳はどうかわからないけれど。

 というか克巳との恋を応援してくれているのではなかったのだろうか、とあまりの暴走っぷりに些か疑問を感じる。

「まあ、今の俺には関係ないから。さ、食べよう。デザート頼むんだろ?」

 不服そうな良樹を横目に食べたアクアパッツァは、どこか懐かしい味をしていた。
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