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かつてそれは恋だった

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 俺の名を呼んだ店員のシャツのポケットには、店員ではなくオーナーと書かれている。

 しかも、ユウリとカタカナでとなれば、疑惑は確信に変わる。

「どうしてユウリが日本に?」

 良樹は当たり前だが、俺とユウリを交互に見ながら混乱しているようだ。

「去年かな?こっちに戻ってきて店を開く準備をしてたんだ」

 そう言うと「というか、奏こそ元気だったのかい?」と久しぶりに会った距離感を感じさせずに会話に花を咲かせようとしている。

「俺は変わらず元気にやってるよ。それより、戻って来てたなら連絡くれればいいのに」

「ええ~ひどいな、奏。連絡したのにエラーで返ってきた時の虚しさったら、意気消沈だよ」

 手に持ったトレイを脇に挟め、オーバーに両手を上げ下げする、そして不自然に四字熟語を使う辺り以前と全く変わらないユウリに俺が懐かしさと安堵を覚えていると、見兼ねた良樹が聞いてきた。

「ああ~彼はユウリで今はここのオーナーらしいんだけど、まあ要するに俺の元カレですね」

「こんばんは。ユウリ佐月と申します」

 良樹が驚くのも無理はない、なんせ最近話題に上がっていた元カレが今目の前にいるのだから。

「おっと、戻らないと。奏、帰りにまた会えるかな?スタッフの子には言っておくから~」

 じゃあごゆっくりと言ってユウリが静かに扉を閉める。

「ちょ、ちょっと!今のってネタじゃないよね?リアルだよね?!」

 そんなわけないだろ、と言いながら俺自身、驚きを隠しきれない。

 ユウリと知り合ったのは大学の頃、付き合うに至ったのは大学二年生だった。

 ユウリは良樹が言うように父がイタリア、母が日本のハーフであり、外見はイタリア人の父の遺伝子が濃く出たのか目鼻立ちがくっきりとした外人よりの顔をしていた。

 加えて性格は底なしに明るく、思い悩みがちな日本人からすると異質でけれども好かれることが生まれ付きであるかのように、常に周りに人がいる人、それがユウリだ。

 そんなユウリと親しくなったのは、とある講義で彼があたふたとしていたことがきっかけだった。
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