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恋と呼びたいだけだった

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「うん、そうだね。それは克巳くんの言い方が良くなかったよね」

 良樹はただ優しく、そうだね、うん、と言ってくれていた。

 それは良樹の仏のような優しさのおかげなのだろう、現にみっともなく泣きじゃくりながら帰ってきた俺を無言の微笑みで出迎えてくれたのだ。

 なのに、俺は今、悪酔いをしてしかもウザ絡みまでしてしまっているとは、なんと無様な男なのか。

「でもさぁ、奏じゃないけど、克巳くんも克巳くんだよね」

 間延びした喋り方が嫌ではないのが不思議だ、何故だろう。

 そう全く関係のないことを思いつつ、傍らでは良樹の言葉が意味することを思い浮かべていた。

 時は遡り、ファミレスを飛び出した後の話。

 クソッ、なんなんだよ。

 最早誰に対してそう思うのかもわからない悪態をつきながら、俺は家路へと急いでいた。

 ファミレスを出て右が良樹の家、左が俺たちが同棲する家。

 もちろん俺は家出二日目なのだし、何も解決どころか事態は悪くなる一方だ、だから進むべき方向は右の一択だ、なのに。

 白い二階建てのアパート、通るとキャンキャン吠える犬がいる家、気付けば俺は見慣れすぎた風景を横切ろうとしていた。

 大抵、残業が重なって夕飯を作る時間がない時やくだらない事で喧嘩をして夕飯を作る気になれない時、そんな時によくこのファミレスを頼っていた。

 つまり、第二の食卓的存在であり、俺たちの救世主的存在、それがこのファミレスだった。

 俺はコッテリ派、克巳は意外にもあっさり派と好みも性格同様に正反対に別れているし、会話を求める俺に静寂を求める克巳と食事中の過ごし方だって見事なまでに正反対。

 けれど、職場で交わす愛想笑いや心が込められていない相槌より何百倍も心地が良かった。

 克巳が何も言わなくてもただ、微笑んでくれるだけでたとえ克巳の優柔不断加減に喧嘩をした日だとしても、自然と謝ってしまう何かがそこには必ず存在していた。

 だから、今日もきっとそうなる、気付けばまた俺が「俺が大袈裟だったよな、ごめんな。」みたいなことを並べて仲直りしているはずと信じて疑いもせずにいた。

 しかし、俺の隣は街灯に照らされた俺の影しかいないなんて。

 今頃克巳、どうしてるかな。あたふたしながら東雲先生のハイテンショントークに付き合ってるのだろうか、それか東雲先生の友人と意気投合でもしているだろうか。
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