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恋と呼びたいだけだった

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 俺たちがうんともすんとも言わない間に、東雲先生は克巳の隣に、東雲先生の友人らしき女性が俺の隣に座り始める。

 つまり、側から見れば立派な合コン風景の出来上がりだ。

 彼女たちはぺちゃくちゃぺちゃくちゃと、聞いてもいない自己紹介やら趣味はどうのとか、そんな話を夢中になってしていた。

 一方で俺は、すっかり帰るタイミングを失ってしまったことと彼女たちの半強制的な圧力にげんなりした表情で克巳を見ていた。

 お前も早く帰りたいと思ってるよな、そう思っていてくれ、と一抹の望みに願いをかけて。

 しかし、東雲先生とはやはり馬が合わない気がする。

 間延びをした喋り方は第一に、やたらと克巳にベタベタしていないか。

 ただの同僚にそんなにベタつく必要があるのか、しかもぴったりと腕と腕をくっつけてまで。

 それに克巳も克巳だ、もう少し嫌そうにするとかしたらどうなんだ。そうすれば彼女だって気が回る人ならば自ずとわかるはずだろう。

 東雲先生の友人らしき女性の話など全く耳に入らず俺はずっと、目の前の二人を観察していた。

 すると、俺の視線に気が付いたのか東雲先生が俺の方に身を乗り出し「そういえば、戸崎先生って彼女いるんですかぁ?」と聞いてきた。

「え?俺ですか?まあ、恋人はいますけど」

「やっぱりそうなんだ?!油井先生が言ってた通り~!」

「油井先生がって、どういうことですか?」

 何やら穏便ではない言葉に俺がそう聞くと東雲先生は「あ、やだ、ついうっかり」と、あの日の密会を匂わすような発言をし始めた。

 あの日、俺は克巳から「同僚と食事に行く」としか聞いていなかったが、東雲先生がついうっかり暴露してくれたおかげで俺が見た後ろ姿が彼女であったとはっきり証明されてしまったわけである。

 しかも、東雲先生の話を要約すれば、その相談内容というのは授業の進め方や生徒の進路のことでもなく、自身の恋愛相談だというのだ。

「でもぉ、油井先生は彼女さんいらっしゃらないんですよねぇ?」

 ですよねぇ?だと?

 語尾をやけに延ばす喋り方も女性に多い匂わせも、全てが俺の癪に触るようで、苛つきが治らない。

 ですよね、の匂わせはイコールそうであるという方程式が出来上がるものだ。

 もしもその式が合っているとするなら。

 俺はもう一度、縋るような目で克巳を見た。
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