多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

文字の大きさ
上 下
7 / 102
恋と呼びたいだけだった

(7)

しおりを挟む
 めちゃくちゃな思考回路を抱えながらの授業に部活、その日の夜はとても疲れていた。

 中学生、しかも三年生の担任となれば自ずと責任がのしかかる。今は五月、あと10ヶ月もすれば彼らはここを巣立っていく。

 テストに進路、夢がある生徒もいればそうではない生徒もいる中、教師としての役割は非常に重要なのだ。

 特に今日はとある生徒の相談に時間がかかり、尚更脳は糖分不足状態だった。

 しかも、その相談とやらが勉強でも進路でも部活でもなく、恋愛相談ときたものだ。

 正直なところ、相談する相手を間違えていると助言したかった。なんせ現実的に彼氏とは上手くいっていない、そんな奴がアドバイスなどできるはずがないだろう。

 けれど、その生徒の眼差しに断りを申し入れるなどはできなかった。好きだけど好きとは言えないそんな気持ちは痛いほどにわかる。

 やはり、今日はジンライムを一杯だけでも浴びるしかないか。

 疲れ果てた身体を引き摺り、今日も良樹の家に帰ろうとしていると、袖を心許無い力で握られた。

 8割の期待で振り返る。瞬間、俺の心拍数が突如として上がり始める。

 デカい身体を精一杯に丸めた克巳が、そこにいたのだ!

「あ、あの、奏。昨日はどこに泊まったの?」

 控えめにけれども俺の目を見て言う克巳に、俺は思わずこう思った。

 なんだろう、このデカくて可愛い生き物は。ああ、もうとりあえず一回は抱きついていいだろうか、と。

 出会った頃は長かった髪も今やばっさりと切られ、顕になった目は茶色く丸く、眉は太くて凛々しい。

 克巳的には茶に染まった色と垂れた目がコンプレックスであるそうだが、俺はそれこそが克巳のチャームポイントだと思っている。

 八の字に垂れ下がった眉と目で俺を見る克巳に、俺の頑なだった足が一歩前へ出ようとする。

 しかし、そこでマイナス思考が叫び出した。

 家出二日目にして帰るのはなんだか癪に障る!
 しかもまだなんにも解決していない!

 裾を掴む克巳の手にそっと自分の手を重ねて、勢いよく歩き出す。

 時計を見ればまだ18時半だ、克巳の性格からして昨日は碌なメシなんて食べていないはずだし、まずこいつは料理が壊滅的に下手だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

何処吹く風に満ちている

夏蜜
BL
和凰高校の一年生である大宮創一は、新聞部に入部してほどなく顧問の平木に魅了される。授業も手に付かない状態が続くなか、気づけばつかみどころのない同級生へも惹かれ始めていた。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...