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恋と呼びたいだけだった
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こうなると、俺たちは誰にも止められない。まあ、止める相手はお互いにいないけれども。
良樹も止めるつもりはないらしく、パイナップルの愚痴を吐く綺麗な唇は動き続けている。
どうやら、しばらく良樹の出張で会っていなかった間にパイナップルと喧嘩をしたみたいだ。
と言っても、パイナップルはある意味克巳と同じ人種であるから、あちらは喧嘩とは認識していないのだろう。
要約するとパイナップルに彼女ができた、それについて無神経なパイナップルが良樹のおかげだと褒めたということだった。
それはそれは、と俺はまた意味もない言葉を紡ぎながらも心情はいつも複雑なものだ。
何故なら、良樹は片思いして10年、パイナップルの良き友人として振る舞っているからなのだ。
「親友って言葉、僕は一番嫌いだ」
「うん…。俺もそれは同感」
良樹はそう言うと、しんみりしかけた空気を振り払うかのように、キッチンに向かい持ってきたのは酒瓶と氷にトニックウォーター。
思わず、俺はギョッとした。それは、アルコール度数40パーセントのジンだったから。
「これ、いっちゃう?」
ああ、もうダメだ。完全にストッパーが外れてる。
けれど、良樹とのこの雰囲気は嫌いじゃない。
家出初日の夜、俺たちは克巳のこともパイナップルのことも一旦脇に置いて、大いに二人の時間を楽しんでいた。
翌日、狭い職員室で克巳に会った。
俺と顔を合わせるや否や、目をウロウロさせてしまいには涙ぐみそうになっていたものだから、俺は居た堪れなくなりそそくさと教室に向かうことにした。
だが、よく考えろ、どうして俺が居た堪れない空気になっている。
そう思うのは今朝の俺の馬鹿な行動のせいだった。
多分、俺はまだ克巳に少女漫画のような展開を求めていたのだと思う。
今朝、俺は一抹の望みをかけて携帯を確認してしまったのだ。もちろん、克巳からの連絡が入っているであろうと8割の望みをかけて。
だが、結果は散々なものだ。それゃあ、わかってはいたさ、いたけれども家出までしたんだぞ、しかも克巳と同棲して初めての家出だったのに!
どうして俺ばかり、と心の中は悲劇のヒロインでいっぱいだった。
同時に胸に掬うのは考えたくもない不安の塊。
もし、克巳が俺を好きじゃなかったら、もし、俺だけが克巳を好きだとしたら。
思考は確実に悪い方向に足を運んでいる。
ああ、今すぐジントニックかもしくはジンライムを一気に飲み干してしまいたい。
昨夜のジントニックは最高だった、どうして良樹が作る酒はあんなにも美味いのか。
そういえば、良樹はちゃんと仕事に行けたのだろうか。ああ見えてアルコールには然程強くはないのに。
良樹も止めるつもりはないらしく、パイナップルの愚痴を吐く綺麗な唇は動き続けている。
どうやら、しばらく良樹の出張で会っていなかった間にパイナップルと喧嘩をしたみたいだ。
と言っても、パイナップルはある意味克巳と同じ人種であるから、あちらは喧嘩とは認識していないのだろう。
要約するとパイナップルに彼女ができた、それについて無神経なパイナップルが良樹のおかげだと褒めたということだった。
それはそれは、と俺はまた意味もない言葉を紡ぎながらも心情はいつも複雑なものだ。
何故なら、良樹は片思いして10年、パイナップルの良き友人として振る舞っているからなのだ。
「親友って言葉、僕は一番嫌いだ」
「うん…。俺もそれは同感」
良樹はそう言うと、しんみりしかけた空気を振り払うかのように、キッチンに向かい持ってきたのは酒瓶と氷にトニックウォーター。
思わず、俺はギョッとした。それは、アルコール度数40パーセントのジンだったから。
「これ、いっちゃう?」
ああ、もうダメだ。完全にストッパーが外れてる。
けれど、良樹とのこの雰囲気は嫌いじゃない。
家出初日の夜、俺たちは克巳のこともパイナップルのことも一旦脇に置いて、大いに二人の時間を楽しんでいた。
翌日、狭い職員室で克巳に会った。
俺と顔を合わせるや否や、目をウロウロさせてしまいには涙ぐみそうになっていたものだから、俺は居た堪れなくなりそそくさと教室に向かうことにした。
だが、よく考えろ、どうして俺が居た堪れない空気になっている。
そう思うのは今朝の俺の馬鹿な行動のせいだった。
多分、俺はまだ克巳に少女漫画のような展開を求めていたのだと思う。
今朝、俺は一抹の望みをかけて携帯を確認してしまったのだ。もちろん、克巳からの連絡が入っているであろうと8割の望みをかけて。
だが、結果は散々なものだ。それゃあ、わかってはいたさ、いたけれども家出までしたんだぞ、しかも克巳と同棲して初めての家出だったのに!
どうして俺ばかり、と心の中は悲劇のヒロインでいっぱいだった。
同時に胸に掬うのは考えたくもない不安の塊。
もし、克巳が俺を好きじゃなかったら、もし、俺だけが克巳を好きだとしたら。
思考は確実に悪い方向に足を運んでいる。
ああ、今すぐジントニックかもしくはジンライムを一気に飲み干してしまいたい。
昨夜のジントニックは最高だった、どうして良樹が作る酒はあんなにも美味いのか。
そういえば、良樹はちゃんと仕事に行けたのだろうか。ああ見えてアルコールには然程強くはないのに。
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