多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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恋と呼びたいだけだった

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 克巳の煮え切らない態度は今までに散々目の当たりにしてきたし、その度に苛々しているという感情が文字として浮かび上がるくらいにはっきりと苛ついていた。

 だが、今ほど克巳の持つ優しさや他者に共感する力を憎んだことはなかった、なのに。

 言わなかったのは東雲先生に言われたからだとか、やましいことは何もしていないだとか、克巳が言い訳めいたことを呟く。

 正直、疲れていたんだ、俺は。いつもいつも、お前が誰かに色目を使われている度に、俺ばかりがジェットコースターの感情の波に振り回されていることに。

「な、なに、してるの?奏」

「あ?あぁ、荷造り」

「え?なんで、荷造り?ここから出ていくってこと?」

 寝室に行き、クローゼットの中からキャリーケースを引っ張り出し、静かに洋服を詰める俺を克巳がオロオロとした眼差しで見つめるが服を詰める俺の手は止まることはない。

 克巳は俺の後ろを右に行ったり左に行ったり、まるで熊のようである。

 怒った母親熊の機嫌をどう取ろうかと子熊が困っている光景が目に浮かぶようだ、と全く関係のないシチュエーションに、咄嗟に浮かんだ笑みを押し殺していた。

「じゃあ、行くわ」

 元気で、とは言わず結局俺はその一言だけで家を出ることにした。

 自分から言い出した、それは事実だ。だが、と俺はゴロゴロと音を立てながらキャリーケースを引き摺り、考える。

 何故、克巳は何も言わないのか。仮にも俺たち、ちゃんとした恋人をしている、しかもしていたじゃなくて現在進行形のしている、なんだぞ。なのに、引き留める一言も行動だって何一つないのはおかしいとしか言えないだろ。

 あんなにデカい図体をしているんだから、玄関の前で通せんぼしたりでもすればー。

 そこまで考えたところで我にかえる。なんだそれ、少女漫画に憧れすぎかよ。

 第一、そんなことができるなら最早それは油井 克巳ではない、俺の知らない油井 克巳だ。

「ってことがあったんだって、なあ、聞いてる?」

「はいはい、聞いてますよ。要するに、奏くんは克巳くんが愛してるんだよ~ってことだろ?」

 話をまとめるのはゲイ仲間の良樹。何かあるたびに良樹が住む一軒家に駆け込んでいるため、最早第二の我が家と化している。

 良樹とはとあるゲイバーで知り合った。
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