上 下
2 / 102
恋と呼びたいだけだった

(2)

しおりを挟む
 小さい顔、頭。だが、もっと驚いたのは右目を覆うほどに長い髪の毛。

 可愛らしいマトリョーシカのようで、けれどまた別の、なんと表現すればいいのかわからない。

 ただ一つ言えるのは、とてつもなくバランスが悪い奴だということだ。

 今時、そんなことを気にするなんて時代錯誤も甚だしい、そうは思っていても目に入る情報が人を認識する最初の情報なのだ。

 しかし、俺が言いたいことは外見がどうのこうのといった問題ではないと強く主張したい。

 つい、驚いてしまったのは俺の完全な思い込みではある、俺は隣に立つそいつを認識した瞬間から厳つい顔をした奴だと勝手に想像していた。

 俺が言いたいのは結局、そいつの鬱々とした態度そのもの。

 ごめんなさい、怪我大丈夫ですか、弁償します、そいつは何回もビクビクしながらデカい図体を縮こまらせているその性格にこそ、物申したかったのだ。

 猫を被って「俺はもう大丈夫ですから」とか言いながら実のところ俺は既に我慢の限界だった。

 何故なら、そういう奴が俺は大嫌いだからだ。

「おい!お前なぁ、いい加減にしろって!」

「え、え?俺ですよね、あ、あれですか?治療費とかそういう類のことでしたらご心配なさらなくても」

「あぁーもうッ!だから、そういうことじゃなくて!」

 噛み合わない、恐ろしく噛み合わない。どうしてこんなにというほど。

 その時の俺は、最悪だった。自分だって国語の教師のくせして主語もクソもない言葉遣いだったなんて微塵も思いもせず、自分の主張こそが正しいと自信満々に胸を張っていたのだから。

 だが、もっと最悪なのは大嫌いなそいつを何故か放っておけなかった自分自身だろう。

 今、思えば全ての始まりはここからだった。

「そうじゃなくて!お前、名前なんて言うの」

「あ、俺は油井です」

「ゆい?随分と可愛らしい名前なんだな」

「あ、いえ、下の方ではなくて苗字です。フルネームは油井 克巳です」

 紛らわしい言い方をするんじゃねーよ。自分の過ちを他人で上塗りした、またしても最低な俺の出来上がりだ。

「…油井、お前そのペコペコすんのやめろよ」

「え、だって、自分が完璧に悪い、のに」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

桜吹雪と泡沫の君

叶けい
BL
4月から新社会人として働き始めた名木透人は、高校時代から付き合っている年上の高校教師、宮城慶一と同棲して5年目。すっかりお互いが空気の様な存在で、恋人同士としてのときめきはなくなっていた。 慣れない会社勤めでてんてこ舞いになっている透人に、会社の先輩・渡辺裕斗が合コン参加を持ちかける。断り切れず合コンに出席した透人。そこで知り合った、桜色の髪の青年・桃瀬朔也と運命的な恋に落ちる。 だが朔也は、心臓に重い病気を抱えていた。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

処理中です...