俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏が家出した

(5)-6

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「榊?」
「ごめん、南沢」

 自分に言い聞かせるように呟く。きつく握った腕の力を緩めると同時に、南沢の身体を抱きしめた。

「お前ッ!まじでいい加減にしろって!」
「ごめん、南沢。でも俺、やっぱり南沢のこと、離したくない。そばにいたい。それだけじゃダメか?」

 抗う力が徐々に抜けていく。ずるずると、南沢の身体がずり落ちていく。

「南沢」
「…俺、ずっと榊のこと、すげーなって思ってた。いつだって自分があって譲れない芯があって、俺にはないものばかり持ってて、尊敬するしそういうところがすげー好きだなって思ってた。でも、本当は狡いところもあるんだな」
「それ、どういう意味だ」
「お前が今、俺に言った言葉だよ!本当は俺、このままでもいいと思ってた。このまま、お前が誰かを好きになっても俺だけは榊のそばを離れるつもりないって本気で思ってたよ。でも俺、もう辛い。お前の隣でお前を見つめ続けることが、お前の恋をこの先、何食わぬ顔で応援するかと思うと、もう、おかしくなりそうなんだよ?だから」
「だから?」
「ごめん。友達、やめようか」

 何も言えなかった。目に残るのは、南沢の切ない瞳だけだった。

「…榊、俺、榊と友達になれて毎日、楽しかったよ。今まで、ありがとな」

 南沢が立ち上がり、囁くような声でそう言うと、僅かな足音を立てて遠ざかっていった。

 (くそ、くそ!なんでこうなるんだよ)

 ずるずる、南沢がいた場所に自然と座り込む。温かさなんか感じられないはずなのに、南沢の残す体温がそこにこびりついているような気がする。
 何をどこから間違ったのだろう。わかっているのに、けれど正面から受け止める勇気が出ない。
 いつから好きだったのかとか、いつから悩んでいたのかとか、聞きたいことはたくさんあった。なのに、一つも聞けなかった。

 (狡い、か。たしかに、そうだよな)

 南沢がいないと心が弾まない。もう、友達ではいられないと、明日からの自分を想像すると一生、笑えないような気がしてくる。
 好きなのに、ただそれだけなのに、伝えられない。

「馬鹿かよ、俺」

 呟いたと同時に、視界が滲んだ。きっと南沢の方が辛いはずだ、泣いている場合ではない。
 なのに、涙が流れ落ちる。一筋、一筋、流れては止まらない。

 背中に触れた壁の冷たさが、まるでこれから先の心の温度を表しているように思えて、ただ、ただ、ひたすらに悔しくなった。
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