俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏が家出した

(5)-2

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 頭が理解した瞬間、沸々と何かが心の中で蠢くのを感じた。

 (男の子って、別にいいじゃないか)

 今の時代、セクシャリティは多種多様で、お互いを認め合うという世の中の流れになってきている。
 なのに、おかしいだなんて、時代錯誤すぎるだろう。

「私はね、雪が幸せなら誰と付き合ってもいいんじゃないって思ってる」
「じゃあ、堂々と話せばいい」
「でも!私みたいに思ってる人ばっかじゃないの!」

 雪が傷つくの、見たくないのよ―。

 きっと泣いているのだろう。肩を震わせながらそう小さな声で斉藤が言った。

 (馬鹿だ、俺は)

 俯いている斉藤を呆然と見つめながら、榊は自分を卑下していた。同時に自分の考えが浅はかだったことに気が付く。

 (世の中は残酷だったんだよな)

 斉藤の言う通りだった。たとえ、斉藤が南沢の恋愛について何も思わなくても、クラスの誰かは何かを思うかもしれない。

 ふいに母親のことを思い出す。母が病気で入院し、けれども自分は学校に行かなくてはとしばらくしてから登校した。
 当時、榊はクラスでは今のように意固地になって自分を孤立させようとは思っていなかった。むしろ、友人と他愛のない話をして笑い合うことが好きだった。
 だから、友人がいつも通りに話しかけてくれたことが嬉しかった。内心、母親のことがクラス中に知れわたっているかもしれないとビクビクしていた。
 友人の変わらない態度にほっとした。けれど、聞こえてくる声もあった。

『榊の母さん、精神おかしくなったらしいぞ』
『お父さん、浮気してたんだよね?』
『かわいそうだよな、巻き込まれてさ』

 悪意はなかったのかもしれない。聞こえてきた声に、榊や母親の悪口は含まれていなかった。それでも、人はそのときの心の状態で受け取り方が偏ってしまうものだ。

 (俺ってかわいそうなんだ)

 自分で自分をかわいそうだとは思っていなかった。ただ、いつもよりは大変かもしれないとは思っていた、それだけだった。

 (俺の気持ちを勝手に推測すんなよッ!)

 モヤモヤとした何かが次第に沸々と形を変えて怒りに変わっていく。その瞬間、強く思った。人は本当の意味で人の気持ちなどわからない、どうでもいいのかもしれないと。
 その日、榊は初めて友人の誘いを断った。走って帰って、叔父が掛ける声も気に掛けずに部屋に閉じこもった。

 (くそ、くそッ!俺は、かわいそうなんかじゃない!)

 ただ、ひたすらに悔しかったのだ。事情を知らない人にそう思われることが、人の気持ちをあたかも事実のように囁かれる言葉が、まるで本当にそうかもしれないと思わせられることが悔しくて仕方ない。

 違う、違う。そう、思えば思うほど、否定すればするほどにそれが嘘なのではないかと思わせられる。辛かった。一生、人の声など聞こえなくなればいい。
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