俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏が家出した

(3)-6

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 挨拶を交わし、家を出た。帰りがけ、陽子がくれた手作りケーキを手にぶら下げて、南沢と夜道を歩く。

 夏は夜が一番好きだ。というと、漫研の斉藤に「本物のオタクだ」とはやし立てられそうだが、半袖一枚で過ごしやすいこの気温が一番気持ちいい。

 夜風にあたりながら、すき焼きで火照った熱を冷ましていると、南沢が「あのさ」と言った。

「今日、マジでサンキュ」
「ああ、勉強か?」
「それだけじゃなくて、晩飯とかいろいろ」
「いや、こっちこそ、突然、ごめんな?南沢も都合とかあっただろうに」
「いや、俺はむしろ嬉しかったよ。榊といれて、嬉しかったし」
「俺と?」

 思わず呟く。南沢を見ると、月明かりに照らされて見えた顔が真っ赤だった。
 なんだよ、それ。と、榊は思った。だって、嬉しい。もっと一緒にいたいと思っていた。
 以心伝心。その言葉をふと、思いついて、少し恥ずかしくなった。

「そういえば、叔父さんも高校、同じとこ出身なんだな?」
「え、聞いたのか?」
「ああ、教えてくれたよ?」
 嬉しそうに語る南沢を横目に、叔父を恨めしく思う。

「んでさ、叔父さんが高校の時の話も教えてくれて」
「へえ」
「叔父さん、高校の頃はやんちゃしてたらしくてさ、学校抜け出して映画行ったりしてたらしいぜ」
「まじか」
「俺もそういうの、やってみたいなとか思っちゃったりして」

 憧れる~と、南沢が言う。その姿を素直に可愛いと思う。

「…じゃあ、俺たちもやる?」
「へ?」
「学校、抜け出して遊びに行くか?」
「…榊らしくなくて、めっちゃびびったんですけど」

 南沢が足を止め、そう言った。たしかに、らしくはないだろう。けれど、考える前に口を吐いていた。自分でも驚いている。

「だよな、ごめん、忘れて」
 と、止めた足を前に進めようとした。すると、腕を引っ張られる。

「南沢?」
「あの、さ。学校抜け出すのはさすがにやばいから、普通に遊びに行かない?」

 今度の休みとか、どう―?

 電柱の陰になった顔は、どんな表情をしているのか見えなくて、けれど声はまるで糸をピンと張ったように張り詰めていて。
 なんだか、らしくないな。思い、心配になりながらも、嬉しい気持ちを抑えきれない。

 引っ張られた腕を逆に引っ張る。南沢の顔が電柱と月の灯りではっきりと見える。

「もちろん、行く。行きたい」
「…そっか、よかった。じゃあ、決まりな?」

 そう言った南沢の顔は、ほっとしたような、けれどどこか違和感の残る表情を浮かべていた。
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