俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏が家出した

(3)-1

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「お邪魔します?」
「なんで畏まってるんだ」

 いつもの南沢らしくないよそよそしさに、榊は言いながらおかしくなり、声を上げて笑っていた。

 自分の家だと最近、ようやく思えるようになってきたせいだろうか。安心感のせいか、普段、外では見せない姿を見せられる気がする。

 南沢を部屋へ案内する。一緒に暮らしている叔父はまだ帰っていない。

 (叔父さんには悪いけど、帰ってきてなくて良かった)

 去年の学校祭の時、叔父には情けない姿を見られている。名前こそ出していないが、榊が友人関係のことで悩んでいると叔父にはばれている手前、南沢の姿を見られるのは少々恥ずかしかった。

 ほっと安心し、飲み物と菓子を取りにキッチンへ向かった。
 菓子は南沢の好きなせんべいを用意してある。見ると、安心と少しの期待が込み上げてくる。
 今日は南沢と久しぶりに二人で過ごす日なのだ。
 といっても、ただ二人でまったり家で過ごすわけではなく、来週にある学期末テストに向けての勉強会なのだが。
 事の発端は先週のことだった。

「まじでやばいかも…」
「何がやばいんだ?」
「テストだよ…」
 南沢が覇気のない声で言う。

「そう言って、いつも良いじゃないか。テストの成績」
「今回はマジでやばいんだって」
「だから、やばいって何が?」
「上手く言えねー…けど、たしかにやばい」

 口を開けばやばいの連発に、榊もさすがに弁当から顔を上げた。
 本当にやばいのかもしれない。と、南沢を見る。普段の南沢は昼休みに教室にいることなどないのだから。
 数いる友人に誘われ、弁当を掻き込むとすぐさま校庭に飛び出す、その姿を窓から眺める、それが南沢と榊の過ごし方だった。
 それが今日は教室に、しかも数学の教科書を立てている。残念ながら顔は教科書に隠れていて見えない。

「誰かマジで勉強教えてくんねーかな?」
「…南沢なら自力で大丈夫じゃないか?」
「…榊にはこの焦りがわかんねーのかよ」
 くぐもった声に、焦った。

「でも、南沢は授業さぼってないだろ?」
「さぼってはないよ?ただ、ちゃんと授業受けてたかって言われると」
「もしかして、寝てたとか?」
「寝てはいない、と思う」
「思う?」
「…寝てる時もあったかもしれない」

 堪忍したように小さな声で南沢が呟き、榊はとうとう慰めの言葉を失った。
 元々、慰めるなど苦手だ。こういう時、気の利いた言葉が出ればと自分を恨む。
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