俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏が家出した

(2)-1

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「榊~おはよ!」

 夏は朝から暑い。特に最近は、向日葵が咲き乱れそうな暑さだ。
 榊 哲太は夏が苦手なわけではないが、それでも暑すぎる夏は苦手だった。
 しかし、最近ではその暑さも悪くはないと思い始めている。

 その原因である一人の男が今、榊に元気よく挨拶をしてくれた南沢 雪で、榊の親友でもある。

「おはよう、南沢」
「にしても、今日も暑いな?もう溶けちゃいそ」

 たしかに暑い。が、溶けるとは少し大げさで、けれど南沢が言うのならそうなのかもとすら思う。

「溶けたら困る」
「…困るってなんで?」
「南沢と会えなくなるだろ?」
「榊って…マジで天然だよな」

 そうか?と言いながら南沢を振り返ると、何故だか並んで歩いていたはずが数歩後ろにいて、たったそれだけのことに笑みが零れそうになる。

「もうすぐ夏休みだよなぁ」
「ああ」
「榊は今年もバイト?」
「と、弓道。それから漫研かな」
「漫研かあ、そういえば新入部員、入ったんだろ?」

 漫研、とは漫画研究同好会の略称だ。榊はそこに正式に加入していないのだが、なんだかんだで準部員のようなポジションにいる。

「ああ、入ってくれたらしい」
「結構、榊に懐いてるとか聞いたけどな、俺」
 そうか?と言いながら、けれど思い当たる行動に思わず口角が下がる。

 漫研の新入部員は三名だった。そのうちの一人、高崎 凛は、入った当初から明るく元気な性格だった。
 言うならば陽キャ族だ。

『榊先輩ですよね?俺、先輩のこと知ってました!』
『…なんで知ってる?』
『だって俺、去年の学祭、来てましたもん!漫研のブースで先輩のこと見かけて、かっこいいなって思ってたんです、ずっと!』

 当初はお世辞だと、気にもしていなかった。陽キャ族は、よく人を褒めるものだ。陽キャ族の長的な存在である南沢も、榊をよく褒めるため、榊は重く受け止めていなかった。
 が、しばらくたっても飽きることなく『かっこいい』を連発し、しかも隣の席に座った日には『めっちゃ嬉しいっす!』と、溢れ出る想いをぶつけてくる高崎に、鈍い榊ですら懐かれていると認識したのだった。
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