俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏が家出した

(1)-1

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 もう随分と暖かくなった、いや、暑くなった。
 季節は夏、もうすぐミンミンという蝉の鳴き声が聞こえてきそうである。

「榊~お前、よく涼しい顔で仕事できるな」
「涼しくはないけどな」
 言うと、「十分涼しく見える!」と逆切れするのは、同期の春日井だ。

「やっぱりさ、ケチってるのかな?」
「ケチ?」
「クーラーのことだよ」

 小声で春日井が言う。春日井のデスクと榊のデスクは隣同士で、春日井はよく、業務中にもこうして私語を挟む。

「でも、推奨温度だろ?」
「それね、絶対推奨の意味、間違ってるよな?」
「間違ってるとは?」
「だから、推奨の温度にしてたら熱中症続出だろってこと!」

 たしかに、一理ある。榊は先日の恋人を思い出し、頷く。
 先日、雪も同じようなことを言っていた。

『てっちゃん、こんなに温度下げたらダメだって』
『なんでだ?』
『推奨温度ってものがあるだろ?そうしないと、環境破壊につながるんだって』
 言いながら雪がエアコンの温度を上げる。

『でも、雪、汗かいてるぞ?』
『このくらいは我慢しないと。昔はエアコンなんてなかったんだから、平気だよ』

 本当か?疑うような顔で雪を見た。雪は昔から妙に生真面目なところがあり、榊はいつも心配になってしまうのだ。

 そんなことを思い出してつい、業務中だというのに春日井に話していた。時刻は午後三時、他の職員もブレイクタイムとばかりに席を立っていたため、ほっとした。

「それで、彼女さん大丈夫だった?」

 彼氏だが、という言葉は例の如く、飲み込んだ。春日井のことを信用していないわけではないが、まだ雪の了承を得ていない。

「大丈夫ではなかったな」
「というと?」
「案の定、熱中症になった」
 と、言うと春日井は「マジか、大変じゃねーか」と、自分毎のように言ってくれたので、同意を得られたことで榊も知らずのうちにほっと息を吐いていた。

 というのも、本当に大変だったのだ。
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