俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏へ、バレンタイン

(6)-1

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 過去に想いを馳せていると、講師の香坂から進捗状況を確認され、過去の思い出話は一旦、保留となった。

 それからバレンタインまでは本当にあっという間だった。社会人になり、年を取るごとにあっという間に日々は過ぎていくが、最近、時の流れの速さに拍車がかかっている気もしている。

 雪はアパートの部屋で、てっちゃんの帰りを待っていた。もちろん、料理教室で作った綺麗にラッピングされたチョコをテーブルに置いて。

 毎年、バレンタインはそれぞれが選んで買ってきたチョコを二人、向かい合って食べる。そこにワインやつまみがあればその日のディナーは完璧だ。
 一時期の殺人的な忙しさからは解放されたものの、てっちゃんはいまだに忙しそうだ。時刻は七時。まだ、帰る気配のない恋人を待つ時間は思いのほか、寂しいものだ。
 けれど、こうしていられることに奇跡を感じる。そんなことを思ってしまうのはきっと、この前、遠い昔の思い出を蘇らせたからだろう。

 また、過去の記憶に意識が飛びそうになっていた時、ふいに玄関が開く音がした。控えめではない、豪快な音に、てっちゃんが帰って来たことを知らせてくれる。

「おかえり、てっちゃん」
「ただいま、雪」
 一瞬で立った自分がまるで、主人の帰りを待っていた犬のようで少し恥ずかしい。が、嬉しいものは仕方ない。
 しかし、その視線はすぐにてっちゃんの手元へ移る。やはり、とわかっていながらも、しっかりと握られた紙袋を見ると面白くはない感情が胸を過る。

「それ、チョコだよね?」
「ああ、会社の人から。律儀に貰ったよ」
 さらっと言うところを見れば、義理だと疑いもしていない。そんなところがてっちゃんらしいのだが、正直、雪はそこに本命が潜んでいないかと毎年、気が気ではない。
 てっちゃんのことを疑ってはいない。けれど、念のため、「告白とかされてないよね」
 と聞いた。

「ああ~…」
「何、されたの?」
「もちろん、断ったぞ?」

 疑念半分の気持ちが見事、当たってしまい、正直、ショックだ。とはいえ、これだけ格好良くて頼りになる結婚適齢期の男を放っておくほうがまず、おかしいというのは嫌でもわかる。もし、雪がてっちゃんと同じ職場だとしたら、十中八九、狙っていたと言える。

 断ってくれたのだから良しとしなければ、と思うのに、まだ心は十代なのか。割り切れない気持ちでいっぱいだった。

 だからつい、聞いてみたくなった。雪は少し困り顔のてっちゃんにどう言って断ったのかと聞いた。
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