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俺の彼氏へ、バレンタイン
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放課後はやはり、というのか。嵐のように過ぎていった。
部活のために移動しようとした矢先、雪の元へ訪れたのはクラスの女子。握られているのはまあまあ大きな紙袋。
「雪、これ、うちらからのバレンタインチョコ」
「あ、りがとう…」
「良かったらこの袋、使って!」
その意味はあまりわからなかったが、ようやくわかったのはそれからだった。話したことも会ったこともない先輩やクラスの違う女子、しまいには男子にもと、気付けば紙袋はチョコで一杯になっていた。
その中には斉藤と吉井、それから三浦たち、漫研からのチョコもあった。
代表して来た、という斉藤に貰ったチョコは、透明なケースに赤いリボンが巻かれているシンプルなものだったが、ケースから見えるチョコは雪が好きな甘くないチョコで、好みを知ってくれていたのだろうかと意外な目を向けてしまった。
「ってか俺が甘いもの苦手って、なんで知ってんの?」
「ん~本当は口留めされてるんだから秘密だよ?」
榊に聞いたから―。
「榊、が?」
「そう。ってかね、榊も雪親衛隊のメンバーだからね?」
斉藤が言うには、南沢 雪親衛隊という名の部隊があるそうで、そこには斉藤も吉井も三浦も、漫研メンバーも、そして榊も入っていると言った。
「雪の誕生日もバレンタインも、榊には協力して貰ってさ」
言われ、思い出すのは誕生日のこと。プレゼントだと抱えてやってきてくれた。
「実はあのモールで会った日。あの日ね、紗彩と榊で雪に上げるチョコの買い出し、頼んでた日だったんだ」
「え?」
「あの日、雪、なんか元気なかったじゃん?でも、サプライズで渡したいのに雪本人に言えるわけもなくてさ。なんかごめんね?大丈夫だった?」
途端にあの日のことが蘇った。吉井との仲を疑って、けれど違うと言い切った榊が目に浮かぶ。
「おーい、雪!部活、行くぞ!」
「…ごめん、俺、もう行かないと」
「うん、行ってらっしゃい」
「…チョコ、ありがとな」
足は部活へ、けれど気持ちはそのまま。妙な鼓動を奏でる心臓が痛かった。
(走れ、走れ!)
十八時。部活が終わった時刻だ。片付け込みでも十八時なら、いつもよりも早い方だった。
そうは思っても冬の夜は早い。もう暗く、街灯の光や職員室にまだ、生徒がいる教室がぼんやりと明るく光る様を見ながら雪は一人、走っていた。
もちろん、榊に会うために。
もう、校内にいないかもしれない。そう思いながらも足は止まらなく、部活後の重い足も今は感じられないほどに、足は軽い。
とにかく、会いたかった。会って、目を見て顔を見て、言いたかった。渡したかった。
鞄を腕に抱え、雪は走る。ラグビー部の部室から階段を駆け上がり、教室は二階だ。まず、靴があるか見ればいいのに、それすらもせずに雪は駆け上がる。
一つ、一つ。電気がついていなくても教室の扉を開けて見る。A組、B組。長く続く廊下、端から端まで教室を全部見た。
いない、いない。落胆より先にまた、足が動く。
「はあ…くそッ!」
廊下の端まで来て、雪はようやく足を止めた。
どこを見てもいないのだ、榊は。
部活のために移動しようとした矢先、雪の元へ訪れたのはクラスの女子。握られているのはまあまあ大きな紙袋。
「雪、これ、うちらからのバレンタインチョコ」
「あ、りがとう…」
「良かったらこの袋、使って!」
その意味はあまりわからなかったが、ようやくわかったのはそれからだった。話したことも会ったこともない先輩やクラスの違う女子、しまいには男子にもと、気付けば紙袋はチョコで一杯になっていた。
その中には斉藤と吉井、それから三浦たち、漫研からのチョコもあった。
代表して来た、という斉藤に貰ったチョコは、透明なケースに赤いリボンが巻かれているシンプルなものだったが、ケースから見えるチョコは雪が好きな甘くないチョコで、好みを知ってくれていたのだろうかと意外な目を向けてしまった。
「ってか俺が甘いもの苦手って、なんで知ってんの?」
「ん~本当は口留めされてるんだから秘密だよ?」
榊に聞いたから―。
「榊、が?」
「そう。ってかね、榊も雪親衛隊のメンバーだからね?」
斉藤が言うには、南沢 雪親衛隊という名の部隊があるそうで、そこには斉藤も吉井も三浦も、漫研メンバーも、そして榊も入っていると言った。
「雪の誕生日もバレンタインも、榊には協力して貰ってさ」
言われ、思い出すのは誕生日のこと。プレゼントだと抱えてやってきてくれた。
「実はあのモールで会った日。あの日ね、紗彩と榊で雪に上げるチョコの買い出し、頼んでた日だったんだ」
「え?」
「あの日、雪、なんか元気なかったじゃん?でも、サプライズで渡したいのに雪本人に言えるわけもなくてさ。なんかごめんね?大丈夫だった?」
途端にあの日のことが蘇った。吉井との仲を疑って、けれど違うと言い切った榊が目に浮かぶ。
「おーい、雪!部活、行くぞ!」
「…ごめん、俺、もう行かないと」
「うん、行ってらっしゃい」
「…チョコ、ありがとな」
足は部活へ、けれど気持ちはそのまま。妙な鼓動を奏でる心臓が痛かった。
(走れ、走れ!)
十八時。部活が終わった時刻だ。片付け込みでも十八時なら、いつもよりも早い方だった。
そうは思っても冬の夜は早い。もう暗く、街灯の光や職員室にまだ、生徒がいる教室がぼんやりと明るく光る様を見ながら雪は一人、走っていた。
もちろん、榊に会うために。
もう、校内にいないかもしれない。そう思いながらも足は止まらなく、部活後の重い足も今は感じられないほどに、足は軽い。
とにかく、会いたかった。会って、目を見て顔を見て、言いたかった。渡したかった。
鞄を腕に抱え、雪は走る。ラグビー部の部室から階段を駆け上がり、教室は二階だ。まず、靴があるか見ればいいのに、それすらもせずに雪は駆け上がる。
一つ、一つ。電気がついていなくても教室の扉を開けて見る。A組、B組。長く続く廊下、端から端まで教室を全部見た。
いない、いない。落胆より先にまた、足が動く。
「はあ…くそッ!」
廊下の端まで来て、雪はようやく足を止めた。
どこを見てもいないのだ、榊は。
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