俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏へ、バレンタイン

(2)-2

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 結果として、雪の収穫はゼロに近かった。
 とにかくという勢いだけで榊の元へと向かったはいいが、何をどうリサーチするか、具体性に欠けていた。

 最初は偶然、ポケットに入っていたチョコから話を振った。小さい三角の形をしたチョコは朝、姉が無理矢理ポケットにねじ込んだものだ。
 それから次はカフェに誘った。カフェといっても最近できたばかりという、ケーキやパフェが売りのカフェで、男子二人で入るには少々、敷居が高かった。

 榊はモテる。夏の花火の時からずっと、榊の周りは隙あらば女子が囲んでいる。
 だから、敢えて女子がいない時を狙った。体育の移動の時に、声を掛けたのだ。
 なのに、結局、カフェに行ったのは榊と雪、だけではなく、女子たちも。榊と良い雰囲気だった吉井や中学の頃から仲良くしている斉藤、それに先輩の三浦までいた。

 …本当はゆっくり、メニューを見ながら榊の好みを知りたかった。

 結局、ゆっくりなんて暇もなく、女子の勢いに押され、流されるように榊も雪も、今月のおすすめパフェを頼んでいた。

 (まずい、非常にまずいぞ)

 雪の前にはカレンダー。最近、日めくり以外にも卓上カレンダーというものを貰った。父の会社で大量に生産され、余ったものだ。
 卓上と日めくりを見比べる。二月一日。
 溜息が出た。バレンタインまであと二週間を切った。

 モテる榊を捕まえるのは思ったよりも至難の業で、あれから何度か誘おうと試みたが、やはり女子との先約があり、断られてしまった。
 ならば土日に、と思ったが、土日は雪も榊も忙しい。一度、メールをしたけれど、最近、土日もバイトを入れたり、先約があったりでなかなか都合は合いそうになかった。

 …正直、手詰まりだった。

 二人でゆっくり話でもすれば、なんとなくでも好みを聞き出せるかと思っていただけに、その時間すら取れないとなると、手段がない。それが、雪を悩ませている。

「雪~入るわよ」
「姉ちゃん!いつもノックしてからって言ってるだろ?」
 頭が重いところに、また頭を重くさせられる。けれど、姉は悪びれてはいない。

「何?用事でもあった?」
「別に?雪、あんた、今年のバレンタイン、誰かにあげるの?」
 ドキリとする。姉は妙に鋭いところがあるため、隙を見せるわけにはいかない。
 一瞬で気を引き締め、「ないけど」と言う。が、姉は二やついて、ベッドに座り、長い足を組みなおした。

「へえ、そうなんだ」
「…用事ってそれ?」
「実はね、友達が今年、彼氏にチョコあげるっていうから手伝ってるの。それで、最高に美味しそうなレシピ、出来たんだけど雪も欲しいかな~って」
「そ、れは」
「まあ、雪が今年も誰にもあげないっていうんなら、いいんだけどね?」
 意地悪だ。そう、思いながらも、それは喉から手が出そうなほどに欲しいし、あわよくばご教授願いたい。

 姉も妹も、我が家の女性陣は料理が上手い。特に姉は、お菓子作りが格段に上手く、雪が小さい頃かクッキーやらケーキやらと、いろいろ作ってくれていた。
 雪も女性陣に倣って、料理をする。簡単なもの、たとえば卵焼きや野菜炒め、最近では回鍋肉なんかも、自分で一から作れるようになってはいる。
 けれど、唯一、作れないものがある。それがお菓子だ。

 姉に教わり、レシピ通りに作っても何故か、姉が作る形にならない。味はまあ、それなりにいいが、ヒビが入ることは毎度のことで、とにかく見た目が悪い。
 だから雪は、ホワイトデーのお返しは多少、財布の中身が寂しくなっても既製品のクッキーを贈ることにしている。
 そのことを姉は知っている。知りながらこうして、雪を揺さぶっているのだ。
 まるで、川に投げられた釣り紐にぶら下がるエサだ。雪はさしずめ、そのエサを欲しがる魚だろう。
 悔しい。が、困り果てている雪には他に選択肢はない。

「…お願いします」
「よし、よく言った!」
 姉に弱みを見せるのは、今回が初めてではないげ、好きな人絡みのことは初めてで、顔が赤く染まる。

「一応、聞くけど、相手の好みは把握してるのよね?」
 痛いところを突かれ、黙った。すると、呆れたような溜息が聞こえる。

「私からアドバイス。その子に聞くのが難しいなら、周りの子に聞きなさい」
「周りの子?」
「そう、いるでしょ?友達。その子たちに聞いた方が雪も聞きやすいだろうし、気兼ねなく聞き出せる」
 言われ、瞬間、姉は天才かと称賛した。
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