65 / 105
俺の彼氏へ、バレンタイン
(2)-2
しおりを挟む
結果として、雪の収穫はゼロに近かった。
とにかくという勢いだけで榊の元へと向かったはいいが、何をどうリサーチするか、具体性に欠けていた。
最初は偶然、ポケットに入っていたチョコから話を振った。小さい三角の形をしたチョコは朝、姉が無理矢理ポケットにねじ込んだものだ。
それから次はカフェに誘った。カフェといっても最近できたばかりという、ケーキやパフェが売りのカフェで、男子二人で入るには少々、敷居が高かった。
榊はモテる。夏の花火の時からずっと、榊の周りは隙あらば女子が囲んでいる。
だから、敢えて女子がいない時を狙った。体育の移動の時に、声を掛けたのだ。
なのに、結局、カフェに行ったのは榊と雪、だけではなく、女子たちも。榊と良い雰囲気だった吉井や中学の頃から仲良くしている斉藤、それに先輩の三浦までいた。
…本当はゆっくり、メニューを見ながら榊の好みを知りたかった。
結局、ゆっくりなんて暇もなく、女子の勢いに押され、流されるように榊も雪も、今月のおすすめパフェを頼んでいた。
(まずい、非常にまずいぞ)
雪の前にはカレンダー。最近、日めくり以外にも卓上カレンダーというものを貰った。父の会社で大量に生産され、余ったものだ。
卓上と日めくりを見比べる。二月一日。
溜息が出た。バレンタインまであと二週間を切った。
モテる榊を捕まえるのは思ったよりも至難の業で、あれから何度か誘おうと試みたが、やはり女子との先約があり、断られてしまった。
ならば土日に、と思ったが、土日は雪も榊も忙しい。一度、メールをしたけれど、最近、土日もバイトを入れたり、先約があったりでなかなか都合は合いそうになかった。
…正直、手詰まりだった。
二人でゆっくり話でもすれば、なんとなくでも好みを聞き出せるかと思っていただけに、その時間すら取れないとなると、手段がない。それが、雪を悩ませている。
「雪~入るわよ」
「姉ちゃん!いつもノックしてからって言ってるだろ?」
頭が重いところに、また頭を重くさせられる。けれど、姉は悪びれてはいない。
「何?用事でもあった?」
「別に?雪、あんた、今年のバレンタイン、誰かにあげるの?」
ドキリとする。姉は妙に鋭いところがあるため、隙を見せるわけにはいかない。
一瞬で気を引き締め、「ないけど」と言う。が、姉は二やついて、ベッドに座り、長い足を組みなおした。
「へえ、そうなんだ」
「…用事ってそれ?」
「実はね、友達が今年、彼氏にチョコあげるっていうから手伝ってるの。それで、最高に美味しそうなレシピ、出来たんだけど雪も欲しいかな~って」
「そ、れは」
「まあ、雪が今年も誰にもあげないっていうんなら、いいんだけどね?」
意地悪だ。そう、思いながらも、それは喉から手が出そうなほどに欲しいし、あわよくばご教授願いたい。
姉も妹も、我が家の女性陣は料理が上手い。特に姉は、お菓子作りが格段に上手く、雪が小さい頃かクッキーやらケーキやらと、いろいろ作ってくれていた。
雪も女性陣に倣って、料理をする。簡単なもの、たとえば卵焼きや野菜炒め、最近では回鍋肉なんかも、自分で一から作れるようになってはいる。
けれど、唯一、作れないものがある。それがお菓子だ。
姉に教わり、レシピ通りに作っても何故か、姉が作る形にならない。味はまあ、それなりにいいが、ヒビが入ることは毎度のことで、とにかく見た目が悪い。
だから雪は、ホワイトデーのお返しは多少、財布の中身が寂しくなっても既製品のクッキーを贈ることにしている。
そのことを姉は知っている。知りながらこうして、雪を揺さぶっているのだ。
まるで、川に投げられた釣り紐にぶら下がるエサだ。雪はさしずめ、そのエサを欲しがる魚だろう。
悔しい。が、困り果てている雪には他に選択肢はない。
「…お願いします」
「よし、よく言った!」
姉に弱みを見せるのは、今回が初めてではないげ、好きな人絡みのことは初めてで、顔が赤く染まる。
「一応、聞くけど、相手の好みは把握してるのよね?」
痛いところを突かれ、黙った。すると、呆れたような溜息が聞こえる。
「私からアドバイス。その子に聞くのが難しいなら、周りの子に聞きなさい」
「周りの子?」
「そう、いるでしょ?友達。その子たちに聞いた方が雪も聞きやすいだろうし、気兼ねなく聞き出せる」
言われ、瞬間、姉は天才かと称賛した。
とにかくという勢いだけで榊の元へと向かったはいいが、何をどうリサーチするか、具体性に欠けていた。
最初は偶然、ポケットに入っていたチョコから話を振った。小さい三角の形をしたチョコは朝、姉が無理矢理ポケットにねじ込んだものだ。
それから次はカフェに誘った。カフェといっても最近できたばかりという、ケーキやパフェが売りのカフェで、男子二人で入るには少々、敷居が高かった。
榊はモテる。夏の花火の時からずっと、榊の周りは隙あらば女子が囲んでいる。
だから、敢えて女子がいない時を狙った。体育の移動の時に、声を掛けたのだ。
なのに、結局、カフェに行ったのは榊と雪、だけではなく、女子たちも。榊と良い雰囲気だった吉井や中学の頃から仲良くしている斉藤、それに先輩の三浦までいた。
…本当はゆっくり、メニューを見ながら榊の好みを知りたかった。
結局、ゆっくりなんて暇もなく、女子の勢いに押され、流されるように榊も雪も、今月のおすすめパフェを頼んでいた。
(まずい、非常にまずいぞ)
雪の前にはカレンダー。最近、日めくり以外にも卓上カレンダーというものを貰った。父の会社で大量に生産され、余ったものだ。
卓上と日めくりを見比べる。二月一日。
溜息が出た。バレンタインまであと二週間を切った。
モテる榊を捕まえるのは思ったよりも至難の業で、あれから何度か誘おうと試みたが、やはり女子との先約があり、断られてしまった。
ならば土日に、と思ったが、土日は雪も榊も忙しい。一度、メールをしたけれど、最近、土日もバイトを入れたり、先約があったりでなかなか都合は合いそうになかった。
…正直、手詰まりだった。
二人でゆっくり話でもすれば、なんとなくでも好みを聞き出せるかと思っていただけに、その時間すら取れないとなると、手段がない。それが、雪を悩ませている。
「雪~入るわよ」
「姉ちゃん!いつもノックしてからって言ってるだろ?」
頭が重いところに、また頭を重くさせられる。けれど、姉は悪びれてはいない。
「何?用事でもあった?」
「別に?雪、あんた、今年のバレンタイン、誰かにあげるの?」
ドキリとする。姉は妙に鋭いところがあるため、隙を見せるわけにはいかない。
一瞬で気を引き締め、「ないけど」と言う。が、姉は二やついて、ベッドに座り、長い足を組みなおした。
「へえ、そうなんだ」
「…用事ってそれ?」
「実はね、友達が今年、彼氏にチョコあげるっていうから手伝ってるの。それで、最高に美味しそうなレシピ、出来たんだけど雪も欲しいかな~って」
「そ、れは」
「まあ、雪が今年も誰にもあげないっていうんなら、いいんだけどね?」
意地悪だ。そう、思いながらも、それは喉から手が出そうなほどに欲しいし、あわよくばご教授願いたい。
姉も妹も、我が家の女性陣は料理が上手い。特に姉は、お菓子作りが格段に上手く、雪が小さい頃かクッキーやらケーキやらと、いろいろ作ってくれていた。
雪も女性陣に倣って、料理をする。簡単なもの、たとえば卵焼きや野菜炒め、最近では回鍋肉なんかも、自分で一から作れるようになってはいる。
けれど、唯一、作れないものがある。それがお菓子だ。
姉に教わり、レシピ通りに作っても何故か、姉が作る形にならない。味はまあ、それなりにいいが、ヒビが入ることは毎度のことで、とにかく見た目が悪い。
だから雪は、ホワイトデーのお返しは多少、財布の中身が寂しくなっても既製品のクッキーを贈ることにしている。
そのことを姉は知っている。知りながらこうして、雪を揺さぶっているのだ。
まるで、川に投げられた釣り紐にぶら下がるエサだ。雪はさしずめ、そのエサを欲しがる魚だろう。
悔しい。が、困り果てている雪には他に選択肢はない。
「…お願いします」
「よし、よく言った!」
姉に弱みを見せるのは、今回が初めてではないげ、好きな人絡みのことは初めてで、顔が赤く染まる。
「一応、聞くけど、相手の好みは把握してるのよね?」
痛いところを突かれ、黙った。すると、呆れたような溜息が聞こえる。
「私からアドバイス。その子に聞くのが難しいなら、周りの子に聞きなさい」
「周りの子?」
「そう、いるでしょ?友達。その子たちに聞いた方が雪も聞きやすいだろうし、気兼ねなく聞き出せる」
言われ、瞬間、姉は天才かと称賛した。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
待てって言われたから…
ふみ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。
//今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて…
がっつり小スカです。
投稿不定期です🙇表紙は自筆です。
華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる