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俺の彼氏へ、バレンタイン
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「それでは、バレンタインレシピ第一弾を発表します!」
と、香坂が言ったのは、フォンダンショコラ。それから、生チョコ。
思わず、斎賀と目を合わせた。斎賀がプレゼンしたフォンダンショコラも採用されたからだ。
「まずは簡単で美味しいところから攻めて、最終的には誰もが唸るチョコを仕上げましょう!」
リクエストには名前は書かない。が、香坂がウインクをした。
きっと、雪と斎賀によるものだと、香坂にはばれているのかもしれないと思った。
教室の班は、日によって編成が変わる。生徒といってもみんな社会人、来られる日もあれば来られない日もある。
その日、生徒は八割の出席。全員揃うと二十名。それが教室に通う生徒の数からして大所帯なのか、ここしか通っていない雪にはわからないが、みんなが揃った新年会はかなり、大所帯に見えたため、きっとそうなのだろうと思う。
四つに別れたテーブルの一番前が雪と斎賀の班だ。そこには、菅と乃木もいる。
乃木もあれから、料理教室に通い続けている。お菓子作りはもちろんのこと、教室に通い、彼氏に作ったクリスマス料理が思いの他、評判だったようで、もっと腕を上げると息まいているのだ。
香坂の指導の下、料理が始まる。真剣に集中して工程通りに。それが男性陣の料理の仕方だ。が、一方で女性陣は違う。
乃木は元々、お菓子作りを得意としている。クリスマスの時も、圧倒的なクオリティの高さに惹かれ、自ら弟子に志願した。結局、てっちゃんとの揉め事の一端となり、乃木には頭が上がらない。
そして、菅は、料理もお菓子作りもどちらも上手い。ここに通い始めたのは、何年も前になるそう。菅曰く、当時は下手くそで周りについていけなかったと愚痴を零していたが、今やいろどりはもちろん、味付けも見た目も、香坂が作るそれとなんら変わりはしなく、むしろどうしてここに通い続けているのかと疑問にさえ感じるほどだ。
つまり、二人とも慣れている。だから、お喋りをしながらでも、問題はない。
あまりにも真剣になりすぎていると、菅が「気楽にやればいいのよ」とアドバイスしてくれた。少し、気張っていた力が抜ける。
斎賀もそれは同じだったようで、ほっとした顔をしている。と、二人が花を咲かせていたお喋りが降って来た。
「ところで、雪くんと斎賀さんは、渡したい相手、いるんですか?」
問われ、なんとなく、気恥ずかしくなる。
斎賀を見ると、同じように顔をピンクに染めている。斎賀もてっちゃんと同様に、役所勤務をしているそう。部署はてっちゃんのいる総務課ではなく、子育て支援課だというので、関りも面識もないようだった。
斎賀とは数少ない男性の一人として、お互いに話すことも多い。仕事の話が中心だが、時折、料理の話をしたり趣味の話をしたり。(斎賀は昔から漫画を描くことが好きなようだ)
だが、お互い、恋愛の話はしたことがない。斎賀だからというわけではなく、男同志の会話で恋愛の話になることが少なく、雪も気にはなるもののどうやって話をしたらいいのか、わからないままだった。
だから、乃木の振りには感謝した。もしかしたら、斎賀の知らない一面が見られるかもしれないと思った。
「僕は、えっと」
「こらこら、乃木さん?プライベートなことには口を挟みすぎないものよ」
じっと、斎賀が答えるのを待っていると、菅が乃木を嗜める。すると、乃木も「すみません、つい」と、素直にアドバイスを受け入れていた。
たしかに、話したくないことだってある。
つい、乃木の振りに乗っかり、あわよくばと願った自分を反省する。
乃木には悪気はない。社内でも周りを明るくさせる天才だと言われている。素直で物事を深く考えないところが、周りから良い評判を持たれると同時に、時々、踏み込みすぎてしまう。
菅とは教室に通って以来、仲が良いようで、社内でも二人が一緒にランチをしていたり、話をしていたりする姿を見かける。
きっと、乃木の飾らない性格を菅も好きなのだと、勝手に雪は思っている。
と、香坂が言ったのは、フォンダンショコラ。それから、生チョコ。
思わず、斎賀と目を合わせた。斎賀がプレゼンしたフォンダンショコラも採用されたからだ。
「まずは簡単で美味しいところから攻めて、最終的には誰もが唸るチョコを仕上げましょう!」
リクエストには名前は書かない。が、香坂がウインクをした。
きっと、雪と斎賀によるものだと、香坂にはばれているのかもしれないと思った。
教室の班は、日によって編成が変わる。生徒といってもみんな社会人、来られる日もあれば来られない日もある。
その日、生徒は八割の出席。全員揃うと二十名。それが教室に通う生徒の数からして大所帯なのか、ここしか通っていない雪にはわからないが、みんなが揃った新年会はかなり、大所帯に見えたため、きっとそうなのだろうと思う。
四つに別れたテーブルの一番前が雪と斎賀の班だ。そこには、菅と乃木もいる。
乃木もあれから、料理教室に通い続けている。お菓子作りはもちろんのこと、教室に通い、彼氏に作ったクリスマス料理が思いの他、評判だったようで、もっと腕を上げると息まいているのだ。
香坂の指導の下、料理が始まる。真剣に集中して工程通りに。それが男性陣の料理の仕方だ。が、一方で女性陣は違う。
乃木は元々、お菓子作りを得意としている。クリスマスの時も、圧倒的なクオリティの高さに惹かれ、自ら弟子に志願した。結局、てっちゃんとの揉め事の一端となり、乃木には頭が上がらない。
そして、菅は、料理もお菓子作りもどちらも上手い。ここに通い始めたのは、何年も前になるそう。菅曰く、当時は下手くそで周りについていけなかったと愚痴を零していたが、今やいろどりはもちろん、味付けも見た目も、香坂が作るそれとなんら変わりはしなく、むしろどうしてここに通い続けているのかと疑問にさえ感じるほどだ。
つまり、二人とも慣れている。だから、お喋りをしながらでも、問題はない。
あまりにも真剣になりすぎていると、菅が「気楽にやればいいのよ」とアドバイスしてくれた。少し、気張っていた力が抜ける。
斎賀もそれは同じだったようで、ほっとした顔をしている。と、二人が花を咲かせていたお喋りが降って来た。
「ところで、雪くんと斎賀さんは、渡したい相手、いるんですか?」
問われ、なんとなく、気恥ずかしくなる。
斎賀を見ると、同じように顔をピンクに染めている。斎賀もてっちゃんと同様に、役所勤務をしているそう。部署はてっちゃんのいる総務課ではなく、子育て支援課だというので、関りも面識もないようだった。
斎賀とは数少ない男性の一人として、お互いに話すことも多い。仕事の話が中心だが、時折、料理の話をしたり趣味の話をしたり。(斎賀は昔から漫画を描くことが好きなようだ)
だが、お互い、恋愛の話はしたことがない。斎賀だからというわけではなく、男同志の会話で恋愛の話になることが少なく、雪も気にはなるもののどうやって話をしたらいいのか、わからないままだった。
だから、乃木の振りには感謝した。もしかしたら、斎賀の知らない一面が見られるかもしれないと思った。
「僕は、えっと」
「こらこら、乃木さん?プライベートなことには口を挟みすぎないものよ」
じっと、斎賀が答えるのを待っていると、菅が乃木を嗜める。すると、乃木も「すみません、つい」と、素直にアドバイスを受け入れていた。
たしかに、話したくないことだってある。
つい、乃木の振りに乗っかり、あわよくばと願った自分を反省する。
乃木には悪気はない。社内でも周りを明るくさせる天才だと言われている。素直で物事を深く考えないところが、周りから良い評判を持たれると同時に、時々、踏み込みすぎてしまう。
菅とは教室に通って以来、仲が良いようで、社内でも二人が一緒にランチをしていたり、話をしていたりする姿を見かける。
きっと、乃木の飾らない性格を菅も好きなのだと、勝手に雪は思っている。
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