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俺の彼氏とメリークリスマス
(4)-4
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12月24日、クリスマスイブ。雪はそうっと自宅に足を踏み入れた。
今日は日曜日。ということは役所勤務の榊は休みだ。ほんの少し、緊張した面持ちで入る。
榊と会いたい、けれど会ってどんな顔をすればいいのか、いまだにわかりかねていたからだ。
「ただいま~…」
囁くような声で言う。が、案の定榊の柔らかな「おかえり」は聞こえない。きっと今日も道場に行っているのだ。
期待半分確信半分。複雑な気持ちでソファへと腰を下ろした。
プチストライキをしてしまった。今回が初めてだったわけではないがいつもそのあとはソワソワと落ち着かない気分になる。
『なら家出なんてしなきゃいいじゃん』
どこからか結人の呆れた声が聞こえてきそうだ。確かに家出するだけ無駄なのは雪の性格上、わかっている。けれど結局、そうなってしまうのだ。不思議なものだ。
時刻は午前10時。過去の記憶からすれば家出から帰ってきた雪がこの時間にいるのは珍しくそして早い。
昨夜、考え込みすぎたせいで寝不足になった瞼が自然と閉じそうになったがなんとか堪えてキッチンに立つ。
少し早い気もするがもちろん、クリスマスディナーを作るためだ。
今年のクリスマスディナーは例年より豪勢だろう。例年、この時期になるとしつこいくらいにテレビのCMで流れるチキンやスーパーで売られている特別感満載の惣菜やピザ。もちろんどれも美味しいが、それらが並ぶ食卓が榊と雪の普通だった。
しかし今回は一から手作りだ。失敗は許されないが、正直いつもよりワクワクしている。
本当は榊と喧嘩さえしていなければ、もっと嬉しかったに違いない。
冷蔵庫から今日の料理の材料を取り出した。前菜のカプレーゼ、それからフライドポテト、オニオングラタンスープにメインのローストポーク、シーフードパエリアそしてフロマージュガトーショコラ。
一から作るのは全て初めてだ。だからこそ、とっておきのクリスマスにしたくなる。
オニオングラタンスープに使う玉ねぎを薄切りしながら、雪は何年か前に榊と過ごしたクリスマスを思い出していた。
***
「おかえり~」
「た、ただいま!って雪、雪!」
「なんだよ、そんなに慌てて。雪でも振ったのか?」
榊の異常な慌てぶりにそう言った。ここは本州のど真ん中、雪などめったに見られるはずがない。
「いや、そうじゃない!けどまあビッグニュースだ、これを見ろ」
「なに、これ?」
「何って今日の夕飯の材料だ。よし、今日は俺が作る。雪は休んでていいぞ」
そう言われてはい、休ませていただきます、なんて安心して言えるわけがない。なにしろ榊は、料理が得意ではないのだ。できるにはできるが、できるならやりたくはないと本人も自覚している。
だが今日はクリスマスだ。もしかしたら榊もやってみたくなったのかもしれない。
「で?これはどうしたの?」
スーパーの袋から早速中身を取り出す榊の横から覗き込み、思わずそう聞いていた。だってその中身は、榊がいつも買ってくるラインナップとはほど遠い物だ。
「ああ。実はこれな、叔父さんから貰ってきたんだ」
榊が言う「叔父さん」とは、榊を育ててくれた人だ。榊の母親が精神的にきつい時に榊の面倒を一手に受けてくれたそうで、就職して家を出た今でも目をかけてくれているそう。
家を出てこの部屋を借りるとき、雪も一度会ったことがある。榊にはあまり似ていないが、逞しい身体は榊にそっくりだった。
「叔父さんが?珍しいね」
「そうなんだよ。どうせしけたクリスマスしてんだろとか言って、無理やりよこしてきたんだ」
叔父は雪と榊の関係を知る数少ない人だ。時々、様子を見に酒やつまみを差し入れてくれることはあるが、榊と同じくあまり料理は得意ではないのか食料を差し入れてくれることはめったにないので驚いた。
「って言っても、叔父さんの彼女が選んだんだ。多分、気を利かせてくれたんじゃないか?」
叔父の彼女とは、榊が叔父と同居をしている頃から付き合っていた。もしくはそれよりもずっと前から付き合っていた人だ。綺麗で上品だけれども、言うことは榊にもしっかりと言う素敵な女性だ。
以前、榊は自分がいるせいで叔父が彼女と結婚できないと悩んでいたことがある。大学生の頃に無理してバイトを詰めすぎて体を壊したのは、叔父のためを思っていたことも雪はよく知っていた。
まあ、それも見事に叔父にばれてこってり絞られたのだが。
しかし、さすが叔父の彼女だ。雪はシンクに並べられる食材に感心している。
いくら雪が家事全般できるとはいえ、きっと彼女は心配だったのだろう。クリスマスくらいは、と気を利かせてくれたのか、広げられた食材の中には出来立てホカホカのチキンとピザが入っている。
それとは別に榊が取り出したのは、色とりどりの野菜たちだ。つまり彼女は、榊と雪の健康面を心配してくれたということだろう。
「でもてっちゃん、サラダの作り方わかるっけ?」
榊の作る料理といえば、親子丼、カレーライス、シチュー、オムライス。かつ丼に至っては惣菜のカツを買ってくる。なのに繊細なサラダとは。雪は些か心配になり、聞いてしまう。
「まあ、多分?切ればいいだけだって言ってたからな」
慣れない手つきで野菜を切る榊を見守った。正直、手を出したくて堪らなかった。よく今までその手つきで怪我してこなかったなとある意味、感心してしまうほど榊の包丁裁きは危なっかしいものだ。
猫の手なんてものは榊にはいらぬ言葉だと知ったのも、その時が初めてだ。
けれど雪は、ときめいてもいた。真剣に慣れない手つきで料理をする榊が、とんでもなくかっこよかったのだ。
「どうだ?雪」
「…うん、めっちゃ美味しいよ」
今日は日曜日。ということは役所勤務の榊は休みだ。ほんの少し、緊張した面持ちで入る。
榊と会いたい、けれど会ってどんな顔をすればいいのか、いまだにわかりかねていたからだ。
「ただいま~…」
囁くような声で言う。が、案の定榊の柔らかな「おかえり」は聞こえない。きっと今日も道場に行っているのだ。
期待半分確信半分。複雑な気持ちでソファへと腰を下ろした。
プチストライキをしてしまった。今回が初めてだったわけではないがいつもそのあとはソワソワと落ち着かない気分になる。
『なら家出なんてしなきゃいいじゃん』
どこからか結人の呆れた声が聞こえてきそうだ。確かに家出するだけ無駄なのは雪の性格上、わかっている。けれど結局、そうなってしまうのだ。不思議なものだ。
時刻は午前10時。過去の記憶からすれば家出から帰ってきた雪がこの時間にいるのは珍しくそして早い。
昨夜、考え込みすぎたせいで寝不足になった瞼が自然と閉じそうになったがなんとか堪えてキッチンに立つ。
少し早い気もするがもちろん、クリスマスディナーを作るためだ。
今年のクリスマスディナーは例年より豪勢だろう。例年、この時期になるとしつこいくらいにテレビのCMで流れるチキンやスーパーで売られている特別感満載の惣菜やピザ。もちろんどれも美味しいが、それらが並ぶ食卓が榊と雪の普通だった。
しかし今回は一から手作りだ。失敗は許されないが、正直いつもよりワクワクしている。
本当は榊と喧嘩さえしていなければ、もっと嬉しかったに違いない。
冷蔵庫から今日の料理の材料を取り出した。前菜のカプレーゼ、それからフライドポテト、オニオングラタンスープにメインのローストポーク、シーフードパエリアそしてフロマージュガトーショコラ。
一から作るのは全て初めてだ。だからこそ、とっておきのクリスマスにしたくなる。
オニオングラタンスープに使う玉ねぎを薄切りしながら、雪は何年か前に榊と過ごしたクリスマスを思い出していた。
***
「おかえり~」
「た、ただいま!って雪、雪!」
「なんだよ、そんなに慌てて。雪でも振ったのか?」
榊の異常な慌てぶりにそう言った。ここは本州のど真ん中、雪などめったに見られるはずがない。
「いや、そうじゃない!けどまあビッグニュースだ、これを見ろ」
「なに、これ?」
「何って今日の夕飯の材料だ。よし、今日は俺が作る。雪は休んでていいぞ」
そう言われてはい、休ませていただきます、なんて安心して言えるわけがない。なにしろ榊は、料理が得意ではないのだ。できるにはできるが、できるならやりたくはないと本人も自覚している。
だが今日はクリスマスだ。もしかしたら榊もやってみたくなったのかもしれない。
「で?これはどうしたの?」
スーパーの袋から早速中身を取り出す榊の横から覗き込み、思わずそう聞いていた。だってその中身は、榊がいつも買ってくるラインナップとはほど遠い物だ。
「ああ。実はこれな、叔父さんから貰ってきたんだ」
榊が言う「叔父さん」とは、榊を育ててくれた人だ。榊の母親が精神的にきつい時に榊の面倒を一手に受けてくれたそうで、就職して家を出た今でも目をかけてくれているそう。
家を出てこの部屋を借りるとき、雪も一度会ったことがある。榊にはあまり似ていないが、逞しい身体は榊にそっくりだった。
「叔父さんが?珍しいね」
「そうなんだよ。どうせしけたクリスマスしてんだろとか言って、無理やりよこしてきたんだ」
叔父は雪と榊の関係を知る数少ない人だ。時々、様子を見に酒やつまみを差し入れてくれることはあるが、榊と同じくあまり料理は得意ではないのか食料を差し入れてくれることはめったにないので驚いた。
「って言っても、叔父さんの彼女が選んだんだ。多分、気を利かせてくれたんじゃないか?」
叔父の彼女とは、榊が叔父と同居をしている頃から付き合っていた。もしくはそれよりもずっと前から付き合っていた人だ。綺麗で上品だけれども、言うことは榊にもしっかりと言う素敵な女性だ。
以前、榊は自分がいるせいで叔父が彼女と結婚できないと悩んでいたことがある。大学生の頃に無理してバイトを詰めすぎて体を壊したのは、叔父のためを思っていたことも雪はよく知っていた。
まあ、それも見事に叔父にばれてこってり絞られたのだが。
しかし、さすが叔父の彼女だ。雪はシンクに並べられる食材に感心している。
いくら雪が家事全般できるとはいえ、きっと彼女は心配だったのだろう。クリスマスくらいは、と気を利かせてくれたのか、広げられた食材の中には出来立てホカホカのチキンとピザが入っている。
それとは別に榊が取り出したのは、色とりどりの野菜たちだ。つまり彼女は、榊と雪の健康面を心配してくれたということだろう。
「でもてっちゃん、サラダの作り方わかるっけ?」
榊の作る料理といえば、親子丼、カレーライス、シチュー、オムライス。かつ丼に至っては惣菜のカツを買ってくる。なのに繊細なサラダとは。雪は些か心配になり、聞いてしまう。
「まあ、多分?切ればいいだけだって言ってたからな」
慣れない手つきで野菜を切る榊を見守った。正直、手を出したくて堪らなかった。よく今までその手つきで怪我してこなかったなとある意味、感心してしまうほど榊の包丁裁きは危なっかしいものだ。
猫の手なんてものは榊にはいらぬ言葉だと知ったのも、その時が初めてだ。
けれど雪は、ときめいてもいた。真剣に慣れない手つきで料理をする榊が、とんでもなくかっこよかったのだ。
「どうだ?雪」
「…うん、めっちゃ美味しいよ」
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