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俺の彼氏とメリークリスマス
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時計を見れば時刻は20時。まだ先は長いと部長の一声で解散となった総務課の職員は、それぞれに重い腰を上げ帰りの支度をしている。
「じゃあお先!おつかれさま!」
「ああ、おつかれ」
朝とは見違えるようにすっきりとした表情で、春日井が急ぎ足で帰っていく。
定食を完食した後、どんよりとした雰囲気が嘘のように春日井はシャキッとした様子で山のような業務を遂行していた。
ということは、いくらか気が晴れたのだろう。
名前も顔も知らないできる彼女と今夜こそは上手くいくといいな。
そう思いながら榊も帰路に着く足を急がせていた。
「ただいま~」
「おかえり、てっちゃん!」
飛びつく勢いで出迎えてくれた雪を優しく抱きしめる。
「今日は割と早かった?」
「ああ。部長がもう帰っていいって」
「良かったじゃん。じゃあ一緒にご飯食べれるな」
そう言われて気付く。部屋に漂う香りは味噌汁の良い香りだ。
「悪いな。また飯作ってもらって」
「なんで謝る!俺の方が早く帰れたんだから当たり前!」
コートを脱ぐように言われ、ついでに部屋着へと着替えに寝室に向かう。
すっかり冬物へと様変わりしているクローゼットは、もちろん雪のお陰だ。
以前は勝手に服を捨てられほんの少し、憤ることもあったが、今となればそうでもしてくれなければこんなに綺麗なクローゼットには仕上がらなかっただろう。
細やかな気配りもできる雪に感謝しつつ、寝室を出ると更に良い香りがリビングに広がっていた。
「はい、できた。食べよ、てっちゃん」
食卓には味噌汁、生姜焼き、それからマカロニサラダが並べられていた。
「「いただきます」」
自然と重なる声でそう言う。いつからか、言う言葉もタイミングも重なるようになり、最初こそ気恥ずかしい気持ちでいっぱいだったが今となればそれも当たり前のようになっている。
「美味い。雪、また料理の腕上げたんじゃないか?」
「まさか!最近だよ?通い始めたの」
雪は最近、週に二回料理教室に通い始めた。
雪の職場の菅に誘われ、行くことになったと言われたのは一ヶ月前。聞けば前々から料理に興味があったそうなのだ。
けれど榊に言わせれば、雪の料理は充分に美味い。
叔父譲りのザ・男飯しか作れない、まあ雪の誕生日くらいにはそれなりのものを作りはするが。そんな榊に比べれば、雪の作る料理はとても繊細なものだ。
和食洋食中華問わず、見た目も美しく味も塩気が効きすぎないそれらに、今更通わなくてもと思いはしたが、案外頑固な雪に言ってもきっと納得はしないだろう。
結果、雪も楽しそうにしており、料理だってまるで惣菜屋で買う料理のように美味いのだから、文句を言うべきところがない。
「でも、美味いよ。さすが雪だな」
「…てっちゃん?褒めてもなんも出ないからな?」
照れたのか顔を赤く染め、憎まれ口を叩く雪はやはり可愛い。
昔から変わらない可愛さにいますぐキスをしたくなる気持ちを抑え、誤魔化すように一つ咳払いをする。
「やっぱりしばらく仕事忙しい感じ?」
「ああ、そうかも。12月は毎年繁忙期だからな」
「そっかぁ。じゃあクリスマスも?」
「…いや、なんとかするよ」
「本当に?!でも、やっぱり無理してるなら」
「いや、大丈夫だ。一日くらい」
やっぱり気を遣われていた。箸を止めて雪を見ると、雪もこちらを伺うようにじっと見ている。
11月に入ったばかりの頃、雪からクリスマスは一緒に過ごしたいと言われていた。
例年、そう約束しては急な仕事が入るばかりで、ここ数年は一緒に過ごせていなかったからか、遠慮がちに聞いているようだ。
昔から雪は自分の気持ちを押し付けない。それどころか、相手の気持ちを優先させてばかりであまり自分の欲を全面に出さない。
人に優しい雪を尊敬し、そんなところも好きな一方でもっと頼って甘えて欲しいと思う。
だから今回だけは、何としてでも守りたい。
「雪、本当に大丈夫だから。クリスマスは一緒に過ごそう」
願いを込めてそう言えば、雪はふんわりと優しく笑ってくれた。
「じゃあお先!おつかれさま!」
「ああ、おつかれ」
朝とは見違えるようにすっきりとした表情で、春日井が急ぎ足で帰っていく。
定食を完食した後、どんよりとした雰囲気が嘘のように春日井はシャキッとした様子で山のような業務を遂行していた。
ということは、いくらか気が晴れたのだろう。
名前も顔も知らないできる彼女と今夜こそは上手くいくといいな。
そう思いながら榊も帰路に着く足を急がせていた。
「ただいま~」
「おかえり、てっちゃん!」
飛びつく勢いで出迎えてくれた雪を優しく抱きしめる。
「今日は割と早かった?」
「ああ。部長がもう帰っていいって」
「良かったじゃん。じゃあ一緒にご飯食べれるな」
そう言われて気付く。部屋に漂う香りは味噌汁の良い香りだ。
「悪いな。また飯作ってもらって」
「なんで謝る!俺の方が早く帰れたんだから当たり前!」
コートを脱ぐように言われ、ついでに部屋着へと着替えに寝室に向かう。
すっかり冬物へと様変わりしているクローゼットは、もちろん雪のお陰だ。
以前は勝手に服を捨てられほんの少し、憤ることもあったが、今となればそうでもしてくれなければこんなに綺麗なクローゼットには仕上がらなかっただろう。
細やかな気配りもできる雪に感謝しつつ、寝室を出ると更に良い香りがリビングに広がっていた。
「はい、できた。食べよ、てっちゃん」
食卓には味噌汁、生姜焼き、それからマカロニサラダが並べられていた。
「「いただきます」」
自然と重なる声でそう言う。いつからか、言う言葉もタイミングも重なるようになり、最初こそ気恥ずかしい気持ちでいっぱいだったが今となればそれも当たり前のようになっている。
「美味い。雪、また料理の腕上げたんじゃないか?」
「まさか!最近だよ?通い始めたの」
雪は最近、週に二回料理教室に通い始めた。
雪の職場の菅に誘われ、行くことになったと言われたのは一ヶ月前。聞けば前々から料理に興味があったそうなのだ。
けれど榊に言わせれば、雪の料理は充分に美味い。
叔父譲りのザ・男飯しか作れない、まあ雪の誕生日くらいにはそれなりのものを作りはするが。そんな榊に比べれば、雪の作る料理はとても繊細なものだ。
和食洋食中華問わず、見た目も美しく味も塩気が効きすぎないそれらに、今更通わなくてもと思いはしたが、案外頑固な雪に言ってもきっと納得はしないだろう。
結果、雪も楽しそうにしており、料理だってまるで惣菜屋で買う料理のように美味いのだから、文句を言うべきところがない。
「でも、美味いよ。さすが雪だな」
「…てっちゃん?褒めてもなんも出ないからな?」
照れたのか顔を赤く染め、憎まれ口を叩く雪はやはり可愛い。
昔から変わらない可愛さにいますぐキスをしたくなる気持ちを抑え、誤魔化すように一つ咳払いをする。
「やっぱりしばらく仕事忙しい感じ?」
「ああ、そうかも。12月は毎年繁忙期だからな」
「そっかぁ。じゃあクリスマスも?」
「…いや、なんとかするよ」
「本当に?!でも、やっぱり無理してるなら」
「いや、大丈夫だ。一日くらい」
やっぱり気を遣われていた。箸を止めて雪を見ると、雪もこちらを伺うようにじっと見ている。
11月に入ったばかりの頃、雪からクリスマスは一緒に過ごしたいと言われていた。
例年、そう約束しては急な仕事が入るばかりで、ここ数年は一緒に過ごせていなかったからか、遠慮がちに聞いているようだ。
昔から雪は自分の気持ちを押し付けない。それどころか、相手の気持ちを優先させてばかりであまり自分の欲を全面に出さない。
人に優しい雪を尊敬し、そんなところも好きな一方でもっと頼って甘えて欲しいと思う。
だから今回だけは、何としてでも守りたい。
「雪、本当に大丈夫だから。クリスマスは一緒に過ごそう」
願いを込めてそう言えば、雪はふんわりと優しく笑ってくれた。
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