俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

文字の大きさ
上 下
33 / 105
俺の彼氏のお友達

(2)-2

しおりを挟む
 たとえばこれが南沢ではなく、斉藤さんだとすればどうなのか。
 彼女のことを可愛いだとか独占したいだとか思えばそれはいわゆる恋にあたるのだろうか。

「…その、じゃあ俺と南沢は変じゃない、のか?」
 三角形に画用紙を切る、という作業がだいぶ進んだところで、そう切り出した。
 斉藤さんはまだ絵の具での作業が続くようで、絵の具のチューブをパレットに絞り出している。

「ん~変かどうかは本人たちが決めればいいんじゃないかな?それに雪には榊以外にも仲良しさんいるからね」
「…小野、とか?」
「いやいや、小野なんて全然比じゃないよ!もっと仲良くて、そうだなぁ。あれこそ親友っていうのかな?」
 なんだそれ。瞬時にしてはっきりと苛立ちが募り、胸がムカムカとしていた。同時にそんな自分にも驚きを隠せない。
 だって相手は名前も顔も知らない奴だぞ。なのに、誤魔化せない苛立ちは膨らむばかりで、萎む気配のない風船のようにパンパンに張りを保っている。

 16年生きてきて初めての感情だった。今まで親が離婚した時も母親が精神を病んだために俺を残して入院した時ですら感じなかった。
 あの時はただひたすら、無力感だった。子ども故に何もできない自分の無力さをひたすらに感じるしかできなかった。
 けれど今は違うとはっきりわかる。自分でも呆れるくらい嫉妬している。
 自分以外の親友という言葉に、そう呼ばれるそいつに、俺が知らない南沢に。

「おい、斉藤!榊に近づきすぎ!」
 そんな時、だった。南沢が俺と斉藤さんの間からぬっと顔を出した。

「何よ~雪、別にいいじゃん。私が榊と話してたって!」
「ダメだって!斉藤の男らしさが榊に移ったらもっと男らしくなっちゃうから!」
 男らしさって、なんだよそれ。盛大に突っ込みたいが、真横に見えるふわふわの赤茶色の髪が何故だか俺を止めさせる。
 南沢はペンキ塗りでもしたきたのだろうか。ほんのりとシンナーの匂いが漂っている。

「なにそれ!私が男らしいってこと?」
「え?だってそうじゃん?斉藤と言えば男らしさの塊!」
「まじでないわ、雪」
「嘘ウソ、ごめんって」
 テンポの良い掛け合いを聞きながら、たった今感じた嫉妬心をぐっとカッターに込める。

「けど、榊と近過ぎなのはマジだからな!」
「だから、なんで雪が気にするのよ!」
「それは、だって…榊がこれ以上モテたらヤバいだろ?ほら、いろいろと」
 瞬間、ぎゃあぎゃあと騒ぐ声が消え、ほんの一瞬、静寂が走る。けれど次の瞬間には、斉藤さんの盛大な笑い声に満たされていた。

「なによそれ、雪、あんな自分がモテなくなるからって心配しちゃってるってこと?いやーないわ~」
「な、ないってなんだよ!」
 涙を目尻に浮かべながら笑い転げる斉藤さんに、南沢が慌てて釈明をする姿が面白い。

「あっ!榊も笑ってんなよ!」
「ごめんって、つい」
 さっきまでは嫉妬心がとか思っていたのに、今や漫才かと思う自分もどこかおかしくて、南沢越しに目が合った斉藤さんと笑っていた。

 文化祭特有の雰囲気もくだらない掛け合いも、全部が全部楽しかったのは、南沢とだからだと思う。
 たとえば南沢が女子だったら、こうはならないだろう。なら、もういっそこのままでいいじゃないか。
 辿り着きそうで着けない答えに蓋をして、俺はこうやっていつまでも笑い転げていられればと、真っ赤に染まった南沢の顔を見ながらそんなことを思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

秋良のシェアハウス。(ワケあり)

日向 ずい
BL
物語内容 俺は...大学1年生の神代 秋良(かみしろ あきら)。新しく住むところ...それは...男ばかりのシェアハウス!?5人暮らしのその家は...まるで地獄!プライバシーの欠けらも無い...。だが、俺はそこで禁断の恋に落ちる事となる...。 登場人物 ・神代 秋良(かみしろ あきら) 18歳 大学1年生。 この物語の主人公で、これからシェアハウスをする事となる。(シェアハウスは、両親からの願い。) ・阿久津 龍(あくつ りゅう) 21歳 大学3年生。 秋良と同じ大学に通う学生。 結構しっかりもので、お兄ちゃん見たいな存在。(兄みたいなのは、彼の過去に秘密があるみたいだが...。) ・水樹 虎太郎(みずき こたろう) 17歳 高校2年生。 すごく人懐っこい...。毎晩、誰かの布団で眠りにつく。シェアハウスしている仲間には、苦笑いされるほど...。容姿性格ともに可愛いから、男女ともにモテるが...腹黒い...。(それは、彼の過去に問題があるみたい...。) ・榛名 青波(はるな あおば) 29歳 社会人。 新しく入った秋良に何故か敵意むき出し...。どうやら榛名には、ある秘密があるみたいで...それがきっかけで秋良と仲良くなる...みたいだが…? ・加来 鈴斗(かく すずと) 34歳 社会人 既婚者。 シェアハウスのメンバーで最年長。完璧社会人で、大人の余裕をかましてくるが、何故か婚約相手の女性とは、別居しているようで...。その事は、シェアハウスの人にあんまり話さないようだ...。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...