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俺の彼氏のお友達
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たとえばこれが南沢ではなく、斉藤さんだとすればどうなのか。
彼女のことを可愛いだとか独占したいだとか思えばそれはいわゆる恋にあたるのだろうか。
「…その、じゃあ俺と南沢は変じゃない、のか?」
三角形に画用紙を切る、という作業がだいぶ進んだところで、そう切り出した。
斉藤さんはまだ絵の具での作業が続くようで、絵の具のチューブをパレットに絞り出している。
「ん~変かどうかは本人たちが決めればいいんじゃないかな?それに雪には榊以外にも仲良しさんいるからね」
「…小野、とか?」
「いやいや、小野なんて全然比じゃないよ!もっと仲良くて、そうだなぁ。あれこそ親友っていうのかな?」
なんだそれ。瞬時にしてはっきりと苛立ちが募り、胸がムカムカとしていた。同時にそんな自分にも驚きを隠せない。
だって相手は名前も顔も知らない奴だぞ。なのに、誤魔化せない苛立ちは膨らむばかりで、萎む気配のない風船のようにパンパンに張りを保っている。
16年生きてきて初めての感情だった。今まで親が離婚した時も母親が精神を病んだために俺を残して入院した時ですら感じなかった。
あの時はただひたすら、無力感だった。子ども故に何もできない自分の無力さをひたすらに感じるしかできなかった。
けれど今は違うとはっきりわかる。自分でも呆れるくらい嫉妬している。
自分以外の親友という言葉に、そう呼ばれるそいつに、俺が知らない南沢に。
「おい、斉藤!榊に近づきすぎ!」
そんな時、だった。南沢が俺と斉藤さんの間からぬっと顔を出した。
「何よ~雪、別にいいじゃん。私が榊と話してたって!」
「ダメだって!斉藤の男らしさが榊に移ったらもっと男らしくなっちゃうから!」
男らしさって、なんだよそれ。盛大に突っ込みたいが、真横に見えるふわふわの赤茶色の髪が何故だか俺を止めさせる。
南沢はペンキ塗りでもしたきたのだろうか。ほんのりとシンナーの匂いが漂っている。
「なにそれ!私が男らしいってこと?」
「え?だってそうじゃん?斉藤と言えば男らしさの塊!」
「まじでないわ、雪」
「嘘ウソ、ごめんって」
テンポの良い掛け合いを聞きながら、たった今感じた嫉妬心をぐっとカッターに込める。
「けど、榊と近過ぎなのはマジだからな!」
「だから、なんで雪が気にするのよ!」
「それは、だって…榊がこれ以上モテたらヤバいだろ?ほら、いろいろと」
瞬間、ぎゃあぎゃあと騒ぐ声が消え、ほんの一瞬、静寂が走る。けれど次の瞬間には、斉藤さんの盛大な笑い声に満たされていた。
「なによそれ、雪、あんな自分がモテなくなるからって心配しちゃってるってこと?いやーないわ~」
「な、ないってなんだよ!」
涙を目尻に浮かべながら笑い転げる斉藤さんに、南沢が慌てて釈明をする姿が面白い。
「あっ!榊も笑ってんなよ!」
「ごめんって、つい」
さっきまでは嫉妬心がとか思っていたのに、今や漫才かと思う自分もどこかおかしくて、南沢越しに目が合った斉藤さんと笑っていた。
文化祭特有の雰囲気もくだらない掛け合いも、全部が全部楽しかったのは、南沢とだからだと思う。
たとえば南沢が女子だったら、こうはならないだろう。なら、もういっそこのままでいいじゃないか。
辿り着きそうで着けない答えに蓋をして、俺はこうやっていつまでも笑い転げていられればと、真っ赤に染まった南沢の顔を見ながらそんなことを思っていた。
彼女のことを可愛いだとか独占したいだとか思えばそれはいわゆる恋にあたるのだろうか。
「…その、じゃあ俺と南沢は変じゃない、のか?」
三角形に画用紙を切る、という作業がだいぶ進んだところで、そう切り出した。
斉藤さんはまだ絵の具での作業が続くようで、絵の具のチューブをパレットに絞り出している。
「ん~変かどうかは本人たちが決めればいいんじゃないかな?それに雪には榊以外にも仲良しさんいるからね」
「…小野、とか?」
「いやいや、小野なんて全然比じゃないよ!もっと仲良くて、そうだなぁ。あれこそ親友っていうのかな?」
なんだそれ。瞬時にしてはっきりと苛立ちが募り、胸がムカムカとしていた。同時にそんな自分にも驚きを隠せない。
だって相手は名前も顔も知らない奴だぞ。なのに、誤魔化せない苛立ちは膨らむばかりで、萎む気配のない風船のようにパンパンに張りを保っている。
16年生きてきて初めての感情だった。今まで親が離婚した時も母親が精神を病んだために俺を残して入院した時ですら感じなかった。
あの時はただひたすら、無力感だった。子ども故に何もできない自分の無力さをひたすらに感じるしかできなかった。
けれど今は違うとはっきりわかる。自分でも呆れるくらい嫉妬している。
自分以外の親友という言葉に、そう呼ばれるそいつに、俺が知らない南沢に。
「おい、斉藤!榊に近づきすぎ!」
そんな時、だった。南沢が俺と斉藤さんの間からぬっと顔を出した。
「何よ~雪、別にいいじゃん。私が榊と話してたって!」
「ダメだって!斉藤の男らしさが榊に移ったらもっと男らしくなっちゃうから!」
男らしさって、なんだよそれ。盛大に突っ込みたいが、真横に見えるふわふわの赤茶色の髪が何故だか俺を止めさせる。
南沢はペンキ塗りでもしたきたのだろうか。ほんのりとシンナーの匂いが漂っている。
「なにそれ!私が男らしいってこと?」
「え?だってそうじゃん?斉藤と言えば男らしさの塊!」
「まじでないわ、雪」
「嘘ウソ、ごめんって」
テンポの良い掛け合いを聞きながら、たった今感じた嫉妬心をぐっとカッターに込める。
「けど、榊と近過ぎなのはマジだからな!」
「だから、なんで雪が気にするのよ!」
「それは、だって…榊がこれ以上モテたらヤバいだろ?ほら、いろいろと」
瞬間、ぎゃあぎゃあと騒ぐ声が消え、ほんの一瞬、静寂が走る。けれど次の瞬間には、斉藤さんの盛大な笑い声に満たされていた。
「なによそれ、雪、あんな自分がモテなくなるからって心配しちゃってるってこと?いやーないわ~」
「な、ないってなんだよ!」
涙を目尻に浮かべながら笑い転げる斉藤さんに、南沢が慌てて釈明をする姿が面白い。
「あっ!榊も笑ってんなよ!」
「ごめんって、つい」
さっきまでは嫉妬心がとか思っていたのに、今や漫才かと思う自分もどこかおかしくて、南沢越しに目が合った斉藤さんと笑っていた。
文化祭特有の雰囲気もくだらない掛け合いも、全部が全部楽しかったのは、南沢とだからだと思う。
たとえば南沢が女子だったら、こうはならないだろう。なら、もういっそこのままでいいじゃないか。
辿り着きそうで着けない答えに蓋をして、俺はこうやっていつまでも笑い転げていられればと、真っ赤に染まった南沢の顔を見ながらそんなことを思っていた。
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