俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏がバースデイ

(2)-3

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 迎えた翌日のコンディションは、かなり最悪なものだった。というよりも、その週の毎日が最悪な日々の連続だ。

「雪、お前今週ヤバいな?」
 小野が言うが反論する力すら湧いてこない。

「おーい、どうした?お前らしくないな?」
 俺らしいってなんだよ、とずっしりとした重さで肩を組んでくる小野に苛つく。
 しかし、小野がそう言うのも仕方ないと思いながら俺は「だよなぁ。」と笑顔を貼り付けて一言だけ喉から搾り出した。

「ってかさ、今週じゃん?雪の誕生日」
 誕生日。9月23日、祝日の日。教室の黒板横に掛けられているカレンダーを見ればその日はもう今週の土曜日だ った。
 正直なところ憂鬱だというのは、俺自身の問題でもある。
 小学生の頃から俺という人間を何故か周りは明るい奴だと認定してきていた。

 幸い、俺の家族は俗に云うおっとりとした性格で、父も母も姉もみんな絵に描いたように優しい人たちだ。
 そんな家庭で育った俺は、人よりもたくさん笑いたくさん泣き、いつしか感情が豊かな人間となっていた。
 よく食べてよく寝て、クラスではいつも話題の中心にいて、そんな自分でいられることに何の不満もあるはずかなかった。

 その常識が覆されるのは割と簡単だった。

 突然、本当に何の前触れもなくその輪の中心にいることが、苦痛になったんだ。
 次から次へと降って湧いてくる会話が雑音のように聞こえて、思わず耳を塞ぎたくなった。
 とにかく一人になりたい、させてくれとあの当時は心底願っていたそんな時。
 何人もの女子が俺の家に押し寄せ、可愛くラッピングされた箱を手に余るくらいたくさん持ってきた。

『誕生日おめでとう!』

 そう口々に言う女子はニコニコと笑顔を浮かべている、けれど俺はその笑顔に見合う笑顔を返すことは出来なかった。
 それよりも、なんで俺の家にまで!という怒りが湧き上がってきたのだ。
せめて休みの日は、誕生日くらいは好きにさせてくれ、俺、学校ではいい人になってるよな?

 多分もう限界だったんだろう。自分を偽りながらすり減らしながら日々を何気ない顔で過ごして行くのは。
 それでも俺はやはり俺という人を辞められなかった。

 ふと、榊の机を見れば今日も女子が屯している中、女子の圧力に引く素振りを見せながらも榊は笑顔で応じている。
 あれから、榊とは気まずいまま。辛うじて出来ていた挨拶すら出来なくなっていた。
 俺の席は廊下側、榊の席は窓側、間には三列分の席がびっしりと埋まっている。
 小野が言うようにやはり俺はらしくないし、なんなら良くないこと続きで疲弊しているのかと、机に頬をくっつけたまま思っていた。
 同時に避けられているのだろうかとも考える。だとすれば、どうしたら元に戻れるのだろう。
 謝る?何もなかったフリをする?と、去る者は追わず主義がそう考えて、届かないはずの距離をもどかしく思いながらそれでも榊と話したい。

 また図書館で勉強を教えてもらいたい、お前と一緒に本屋にも行きたい。
 好きになってくれなくていいから、せめて友人でいさせてくれ。
 届かない距離を見つめながら俺はまた、らしくなく深い溜め息をついている。
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