俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏のバースデイ

(4)-3

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 それからはもう、最悪だった。一体何故こんなことになったというほど、お互いに馬鹿みたいな言い争いをしていた。

 だって、だってと思った先をこう言えば南沢が傷つくとか、こう言わなければいけないとかそんなことを気にする余裕もなく、言われたら言い返す、子どもの喧嘩のように俺もそして南沢も頬を上気させて言い合っていた。
 そもそも、あの「…ふっざけんなよ」とはどういう意味だったのだろう。
 俺が朝も帰りも挨拶をしたいと言ったからか。いや、それなら今も辛うじてさせてもらっている。
 じゃあ、やはり欲張った未来のせいだろうか。
 お互いに乱した息遣いが自室に広がり、上がり下がりする肩がやけに目に付く。

「…お前、全然わかってねぇ。俺が、俺がどんな気持ちで」
 その理由を聞く余裕もなく、「ごめん、俺、帰るわ」と南沢は言うや否や、そそくさと床から鞄を持ち上げた。
 そして実際に俺の家の扉を開けて帰っていってしまったのだから、それから叔父が帰ってくる19時まで呆然と玄関で立ち尽くしていたのは仕方のないことではないだろうか。

 その日の夕飯は俺の好きなビーフシチューだった。
 カレー派の叔父が辛党でビーフシチュー派の俺のために二種類の夕飯を用意してくれるのは、俺が中学生になった辺りだった。
 あの頃は叔父の優しさが身に染みて、その日の夕飯は必ず三杯はおかわりしていたものだ。
 さすがに16歳の今は成長真っ只中のあの頃とは違い、食べる量も随分と落ち着いてはきている。だが、それにしても。ビーフシチューが装われた皿が半分も減っていない。

「おい、哲。お前、ダチと喧嘩したんだろ?」
「へ?何、突然。喧嘩なんてする訳がない」
嘘は言っていなかった。あれは喧嘩だったのか、俺にはよくわからない。

「そっかぁ、まあ別にいいけど?腹が減っては戦はできぬ、とにかく食べろ!」
 ほら、とスプーンを持たせてビーフシチューを掬う。一口、一口と食べる。そういえば、南沢はカレー派なのか、ビーフシチュー派なのか。

 もし、ビーフシチュー派なら叔父特製のビーフシチューを食べさせてやりたい、カレー派なら頑張って俺が作ってみようか。
 ああ、まずい。時を戻して今すぐ形の良い背中を追いかけたい、手がつけられなかったあいつのお気に入りのスナック菓子を突きつけてやりたい。
 今すぐにあいつの笑った顔を見たい。

 叔父特製のビーフシチューをその日、俺は初めてしょっぱいと感じていた。
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