俺の彼氏

ゆきの(リンドウ)

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俺の彼氏のバースデイ

(2)-1

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 俺と雪がまだ友人だった頃、友人になったばかりの16歳。
 長くて短い夏休み、特に後半は雪、基、南沢と過ごす日が多かった年だった。というよりかは、友人と過ごす夏休みが久しぶりだった気がする。
 その友人がまさか南沢になるなんて、それこそ思いもしなかったものだ。

 俺と南沢は言ってしまえば、正反対の性格だった。
 根暗な俺に明るい南沢、一言で表すとまさにその言葉が嵌る俺たち。
 けれど、何を気に入ってくれたのか、南沢が俺に話しかけてくれるようになり、いつの間にか友人という関係になっていたのだ。

「榊!おはよ!」
「おぉ、おはよう。南沢」

 9月、二学期の始まり。
 一ヶ月ぶりに羽織る制服が4月よりも若干だが、馴染みが良い気がするが季節はまだ夏。
 ブレザーのせいでずっしりと重みを増した鞄を肩に、振り返れば日に焼けた肌の南沢がいた。

「宿題、ちゃんと終わらせられた?」
「あぁ、もちろんだ。南沢は終わらなかったのか?」
「いやぁ、終わったよ?徹夜して」
「徹夜か。だからあの時に言っただろ?宿題は早いうちに終わらせておくべきだって」
 まるで、小学生の親が言い聞かせるように言ってしまう。こんな言い方、良くは思われないだろうに。

「だよな?本当俺って昔から計画性がないんだよなぁ」
 南沢が笑いながらそう言った。その言葉に俺は呆気に取られる。

 そうだ、こいつはそういう奴だった。
 俺にしては思い切って花火大会に誘った時も、宿題を一緒にやってほしいと図書館に行った時も、いつも笑っていた。
 さっきみたいに俺が失言だと思い、自己嫌悪に苛まれる瞬間ですら、こいつは。

「…そんなに困っているなら、連絡すればいいと思う」
「え?連絡って、まさか榊に?」
「…さすがにそれは嫌か」
「ッッ…!まさか!むしろいいの?なら俺、めっちゃ連絡するよ?いいんだな?」
 嬉しそうにそう言う姿が無邪気で可愛い、と思いそうになり、慌てて否定する。
 だって、可愛いってなんだ。南沢は俺と同じ、男だろう。

 生憎、誰かのことを好きになったことも誰かと付き合ったこともない俺は、そういう類の感情がよくわからない。       可愛いから好きなのか、かっこいいから好きなのか。
 そんな単純なことではない、ような気もするがじゃあ、好きってなんなんだ。
 最近になってそう考えるほど余裕が出てきたのか、だとすればそれは確実に南沢のおかげだ。

 隣を歩く垢抜けた男に言い表しようのない感謝を述べながら、教室へと足を踏み入れた。久々に見る顔触れが変わらないことにほっと安堵する。
 何食わぬ顔で登校していたが正直なところ、今日、つまり二学期の初日が恐ろしかったのだ。

 この教室での俺は、4月までは完璧な陰キャ扱いであっていてもいなくても支障がないような存在だった。だが、一学期それから夏休みと俺に訪れた変化を考えればそう案じても仕方のないことではないか。
 想像したくもないが、南沢の気まぐれもしくは、揶揄いまたは何かの賭けだったという可能性だって捨てきれていなかったのだ。

 俺より三人前の隣の列。南沢を見る。
 やはり彼は陽キャである。約一ヶ月の空白に物怖じせず、すっかりとこの教室の中心に鎮座しているのだから。
 笑いながら海に行ったとか、祭りに行ったかとか。まるで流れる水のように次から次へと話題が移り変わっていく。
 そんな時、だった。俺の耳が素早くとあるワードをキャッチし、胸をざわつかせる。

「そういえばもうすぐじゃね?雪の誕生日」
 そうか、誕生日というものがあったのか。もうすぐということは、9月のどこかということだろうか。
 思わず俺は、陽キャたちの会話に聞き耳を立てていた。

「ああ~そういえば、そうだな」
「何、その塩発言。誕生日なんて一年で唯一我儘放題できる日だろ?」
「我儘放題ってガキかよ。ま、その気持ちはわかるけどな」
 もどかしい、というか我儘放題とかガキとか正直どうでもいい、と絶えず続く身の無い会話に勝手にも苛立ちを覚えてしまう。
 俺が知りたいのは、その先なんだ。
 だが、その願いは叶わず。「ホームルームしまーす」と、怠そうな教師の声に俺の目測は憚られた。
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