11 / 105
俺の彼氏がモテすぎる件について
(7)
しおりを挟む
そう自覚したのと初めて嫉妬と呼ばれる感情を目の当たりにした、あの日から。
俺は榊 哲太という男に惹かれ続けている。
日焼け止めを見えている肌に塗りたくって、トイレの個室を出た。向かうのはもちろん、最愛の恋人、哲ちゃんの元だ。
待合の椅子が無数に並ぶ待合所に、お揃いの水色のキャリーケースを探す。
あ、いた!「哲ちゃん…?」と、一際背の高い人を見つけ、掛けようした声が窄まった。
「いや、あの、人を待ってるので、すみません」
「そうなんですか?良かったら一緒に、周りましょうよ!ねえ?」
「うん!私たちも北海道初めてだし!」
なんだよ、あれ。と、旅行初日早々に苛つきを隠せない。
同時にいつか見た光景が、脳裏に鮮明に思い出される。
結局、哲ちゃんは何年経ってもモテるんだ。
ただ、そこに立っているだけで醸し出すオーラがある。
思わず、声を掛けたくなるような、彼氏にしたくなるような、この人の特別でいたくなるような、そんな何か。
けれども、厄介なのはそれを哲ちゃん本人が全く自覚していないことだ。
以前に「哲ちゃんってモテるよね」と聞いたことがある。するとあいつは「え、はあ⁈何言ってんの。それは雪の方だろう?」と、鳩が豆鉄砲をくらったように目をまん丸くして叫んでいた。
だから、厄介なんだ。俺が毎週金曜日の美鳥で哲ちゃんを敢えて奥の席にしているなんて、全く気がついていないのだから。
そう思うと、沸々と怒りに似た何かが沸いてくる。
足を若干大股にして、哲ちゃんの元へ向かった。
「哲太!お待たせ、どうかした?」
敢えて「哲太」と俺が呼ぶ時は、周りを牽制したい時。
「雪!ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
「ごめんって。それより、こちらの方たちは?」
「ああ、なんか一緒に北海道周りたいって」
その言葉に女性達を見ると、露出の多い胸元を見せつけるように哲ちゃんに寄り添っていた。
腹立つ、俺の彼氏なのに。
「ああ~ごめんなさい。俺たち、久しぶりの旅行で。2人きりで水要らずしっぽりする予定なので。さ、行くよ、哲太」
「あ、あぁ。すみません、失礼します。待てよ、雪!」
キャリーケースを片手に、もう片手は哲ちゃんの手を強く握ってひたすら歩みを進める。
早く、あの人たちから離れたところに行きたい。早く、俺たちだけになりたいんだ。
空港を出てタクシーを拾い、ホテルに向かう。
その間も哲ちゃんはどうしたとか待てよとか、無駄に俺の名前を呼んでいたけれど、とにかく俺は「なんでもないよ」をくり返していた。
早く、抱きしめてほしい。キスして、それからー。
ホテルに着き、チェックインを済ませてルームキーを受け取り、エレベーターに乗る。
いつもと変わらない一連の動作ですら、もどかしいと心が叫ぶ。
「んッ…!ちょ、雪!んッッ…!」
「ハァ、ごめん、哲ちゃん、俺…」
部屋に入った瞬間、キスをした。それも俺から、深いものを。
だって、俺、お前が好きすぎるんだよ。だから、お前が俺以外の誰かと喋ってるだけで、おかしくなりそうなんだ。
付き合って8年になれば、お互い空気のような存在だ、トキメキなんか忘れちゃったと、職場の上司が言っていた。
けれど俺は、いまだにこいつにときめくしみっともなく嫉妬するし、同じ空間にいるだけでドキドキするし独占したくなる。
それはもう、泣きたくなるほどに。
哲ちゃんを見ると目が合い、途端に強く抱きしめられた。
「雪、お前が今、何を不安に思っているのか俺には知る由もないけど。大丈夫だ、雪。ここにいるから、大丈夫」
耳を擽るその言葉が心に響いた瞬間、そこから何かが物凄い勢いで全身を駆け巡る。
熱くて、暖かくて、優しいそれは多分、好きとか愛してるとか、そういった類のもの。
抱きしめてくれた力に返すように、哲ちゃんの背中に腕を回し、力を込めた。
「さて、落ち着いたことだし、予定通りに周りに行くか」
そう仕切り直したのは、哲ちゃんだ。随分と前に気がついたのだが、どうやらそれは、まとめ役を買って出ることが多い哲ちゃんの職場での癖のようなものらしい。
時刻は16時。これから辺りを観光して夕飯を食べて、部屋に備えられている露天風呂にでも入って、それからは。
想像するだけで、ワクワクが止まらないと、さっきまでの病みかけていた心を無視して、俺はこれからの旅行に確実に浮き足立っていた。
「ちょっと、哲ちゃん」
「ん?どうした?雪」
荷物を放って手提げ鞄を持ち、部屋を出ようとしたその時。
振り向いた哲ちゃんに軽く音の鳴るキスをした。
「はあ?いきなり、なんだよ」
「いいじゃん、いきなりでも。俺、今、かなり浮かれちゃってるし」
案の定、驚く哲ちゃんの顔はトマトのように真っ赤に染まっている。
可愛くなる哲ちゃんをどうか、誰にも知られませんように。
部屋を出る最中、そんな初々しいことを願わずにはいられなかった。
俺は榊 哲太という男に惹かれ続けている。
日焼け止めを見えている肌に塗りたくって、トイレの個室を出た。向かうのはもちろん、最愛の恋人、哲ちゃんの元だ。
待合の椅子が無数に並ぶ待合所に、お揃いの水色のキャリーケースを探す。
あ、いた!「哲ちゃん…?」と、一際背の高い人を見つけ、掛けようした声が窄まった。
「いや、あの、人を待ってるので、すみません」
「そうなんですか?良かったら一緒に、周りましょうよ!ねえ?」
「うん!私たちも北海道初めてだし!」
なんだよ、あれ。と、旅行初日早々に苛つきを隠せない。
同時にいつか見た光景が、脳裏に鮮明に思い出される。
結局、哲ちゃんは何年経ってもモテるんだ。
ただ、そこに立っているだけで醸し出すオーラがある。
思わず、声を掛けたくなるような、彼氏にしたくなるような、この人の特別でいたくなるような、そんな何か。
けれども、厄介なのはそれを哲ちゃん本人が全く自覚していないことだ。
以前に「哲ちゃんってモテるよね」と聞いたことがある。するとあいつは「え、はあ⁈何言ってんの。それは雪の方だろう?」と、鳩が豆鉄砲をくらったように目をまん丸くして叫んでいた。
だから、厄介なんだ。俺が毎週金曜日の美鳥で哲ちゃんを敢えて奥の席にしているなんて、全く気がついていないのだから。
そう思うと、沸々と怒りに似た何かが沸いてくる。
足を若干大股にして、哲ちゃんの元へ向かった。
「哲太!お待たせ、どうかした?」
敢えて「哲太」と俺が呼ぶ時は、周りを牽制したい時。
「雪!ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
「ごめんって。それより、こちらの方たちは?」
「ああ、なんか一緒に北海道周りたいって」
その言葉に女性達を見ると、露出の多い胸元を見せつけるように哲ちゃんに寄り添っていた。
腹立つ、俺の彼氏なのに。
「ああ~ごめんなさい。俺たち、久しぶりの旅行で。2人きりで水要らずしっぽりする予定なので。さ、行くよ、哲太」
「あ、あぁ。すみません、失礼します。待てよ、雪!」
キャリーケースを片手に、もう片手は哲ちゃんの手を強く握ってひたすら歩みを進める。
早く、あの人たちから離れたところに行きたい。早く、俺たちだけになりたいんだ。
空港を出てタクシーを拾い、ホテルに向かう。
その間も哲ちゃんはどうしたとか待てよとか、無駄に俺の名前を呼んでいたけれど、とにかく俺は「なんでもないよ」をくり返していた。
早く、抱きしめてほしい。キスして、それからー。
ホテルに着き、チェックインを済ませてルームキーを受け取り、エレベーターに乗る。
いつもと変わらない一連の動作ですら、もどかしいと心が叫ぶ。
「んッ…!ちょ、雪!んッッ…!」
「ハァ、ごめん、哲ちゃん、俺…」
部屋に入った瞬間、キスをした。それも俺から、深いものを。
だって、俺、お前が好きすぎるんだよ。だから、お前が俺以外の誰かと喋ってるだけで、おかしくなりそうなんだ。
付き合って8年になれば、お互い空気のような存在だ、トキメキなんか忘れちゃったと、職場の上司が言っていた。
けれど俺は、いまだにこいつにときめくしみっともなく嫉妬するし、同じ空間にいるだけでドキドキするし独占したくなる。
それはもう、泣きたくなるほどに。
哲ちゃんを見ると目が合い、途端に強く抱きしめられた。
「雪、お前が今、何を不安に思っているのか俺には知る由もないけど。大丈夫だ、雪。ここにいるから、大丈夫」
耳を擽るその言葉が心に響いた瞬間、そこから何かが物凄い勢いで全身を駆け巡る。
熱くて、暖かくて、優しいそれは多分、好きとか愛してるとか、そういった類のもの。
抱きしめてくれた力に返すように、哲ちゃんの背中に腕を回し、力を込めた。
「さて、落ち着いたことだし、予定通りに周りに行くか」
そう仕切り直したのは、哲ちゃんだ。随分と前に気がついたのだが、どうやらそれは、まとめ役を買って出ることが多い哲ちゃんの職場での癖のようなものらしい。
時刻は16時。これから辺りを観光して夕飯を食べて、部屋に備えられている露天風呂にでも入って、それからは。
想像するだけで、ワクワクが止まらないと、さっきまでの病みかけていた心を無視して、俺はこれからの旅行に確実に浮き足立っていた。
「ちょっと、哲ちゃん」
「ん?どうした?雪」
荷物を放って手提げ鞄を持ち、部屋を出ようとしたその時。
振り向いた哲ちゃんに軽く音の鳴るキスをした。
「はあ?いきなり、なんだよ」
「いいじゃん、いきなりでも。俺、今、かなり浮かれちゃってるし」
案の定、驚く哲ちゃんの顔はトマトのように真っ赤に染まっている。
可愛くなる哲ちゃんをどうか、誰にも知られませんように。
部屋を出る最中、そんな初々しいことを願わずにはいられなかった。
1
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────



代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる