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君の隣で生きていきたい

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 勇太は昔から内気だった。思っていることの十分の一も言葉で伝えられない。孤独でもいいと言いながら、けれどその実、嫌われたくないと思っていた。

 特にクラスで自分の意見を発表することが苦手だった。思ったことはあっても、それを言葉にしたとき、もし、自分と同じ意見の人がいなかったらどうしよう。もし、意見に同意してくれる人が一人もいなかったらどうしよう。そう、思ってしまうのだ。
 それなら言わない方がいい。前の人の意見に合わせた方が楽だ。そうして楽な方へと目を背けて来た。

 けれど、変わった。思えば陽に告白されたときがきっかけだった。

 最初は揶揄われているのだと思った。どこからどう見ても冴えない自分を好きだなんて、何かの罰ゲームだとも思った。
 今どき、こんな罰ゲーム、盛り上がらないのに。そう思い、上手な断り方を必死に考えた。

 何度も告白されて、いい加減、揶揄いではないのだと気が付いた。真剣に断らないと、そう思うようになり、けれど頑固な陽は引きさがらなかった。
 何度断っても心が挫けることなく、何度でも立ち上がって真正面から体当たりでぶつかってくる。陽のことを知らない勇太に、全力でアピールしてくる。知ってほしい、わかってほしい、好きになってほしい。言葉にしなくてもその気持ちが、陽がいるだけで伝わってくる。

 きっと今までなら、好きにもならなかった。自分とは住む世界が違うのだと割り切っていた。
 でも、いつの間にか、同じ世界にいた。同じ土に足を並べて、そして歩き始めていた。温かな光が勇太を包んでくれていた。だから、変わることができた。伝えられた、自分の想いを。

「俺、めっちゃ嬉しいよ、勇太」
「うん、わかってる」
「ありがとう、好きになってくれて」
「うん。ところで、陽。時間、大丈夫?」

 言うと、陽がベッドサイドの時計を見て慌てた。時刻は午前九時四十五分。保育参観が十時半からで、保育園までは自転車で行っても十五分はかかる。つまり、ギリギリだ。
 慌ただしく、着替え始める。結局、紺のジャケットと縦ストライプのシャツにベージュのチノパンを着た。陽も勇太が選んだ服に袖を通した。

 急いで革靴に足を突っ込む。スリッパを持って家を出たところで陽が「勇太」と声をかけた。

「なに?急がねーと、間に合わない」
「わかってる。でも、これだけだから」

 そう言うと、陽が腕を引っ張った。ぐらり、上半身が揺れてそして陽の顔が近づき、唇に温かな感触が触れた。

「続きは夜、ね?」

 慣れないウインク付きで囁かれた。格好なんかついてないはずなのに、格好良くて胸がドキドキした。
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