17 / 18
君の隣で生きていきたい
(5)
しおりを挟む
勇太は昔から内気だった。思っていることの十分の一も言葉で伝えられない。孤独でもいいと言いながら、けれどその実、嫌われたくないと思っていた。
特にクラスで自分の意見を発表することが苦手だった。思ったことはあっても、それを言葉にしたとき、もし、自分と同じ意見の人がいなかったらどうしよう。もし、意見に同意してくれる人が一人もいなかったらどうしよう。そう、思ってしまうのだ。
それなら言わない方がいい。前の人の意見に合わせた方が楽だ。そうして楽な方へと目を背けて来た。
けれど、変わった。思えば陽に告白されたときがきっかけだった。
最初は揶揄われているのだと思った。どこからどう見ても冴えない自分を好きだなんて、何かの罰ゲームだとも思った。
今どき、こんな罰ゲーム、盛り上がらないのに。そう思い、上手な断り方を必死に考えた。
何度も告白されて、いい加減、揶揄いではないのだと気が付いた。真剣に断らないと、そう思うようになり、けれど頑固な陽は引きさがらなかった。
何度断っても心が挫けることなく、何度でも立ち上がって真正面から体当たりでぶつかってくる。陽のことを知らない勇太に、全力でアピールしてくる。知ってほしい、わかってほしい、好きになってほしい。言葉にしなくてもその気持ちが、陽がいるだけで伝わってくる。
きっと今までなら、好きにもならなかった。自分とは住む世界が違うのだと割り切っていた。
でも、いつの間にか、同じ世界にいた。同じ土に足を並べて、そして歩き始めていた。温かな光が勇太を包んでくれていた。だから、変わることができた。伝えられた、自分の想いを。
「俺、めっちゃ嬉しいよ、勇太」
「うん、わかってる」
「ありがとう、好きになってくれて」
「うん。ところで、陽。時間、大丈夫?」
言うと、陽がベッドサイドの時計を見て慌てた。時刻は午前九時四十五分。保育参観が十時半からで、保育園までは自転車で行っても十五分はかかる。つまり、ギリギリだ。
慌ただしく、着替え始める。結局、紺のジャケットと縦ストライプのシャツにベージュのチノパンを着た。陽も勇太が選んだ服に袖を通した。
急いで革靴に足を突っ込む。スリッパを持って家を出たところで陽が「勇太」と声をかけた。
「なに?急がねーと、間に合わない」
「わかってる。でも、これだけだから」
そう言うと、陽が腕を引っ張った。ぐらり、上半身が揺れてそして陽の顔が近づき、唇に温かな感触が触れた。
「続きは夜、ね?」
慣れないウインク付きで囁かれた。格好なんかついてないはずなのに、格好良くて胸がドキドキした。
特にクラスで自分の意見を発表することが苦手だった。思ったことはあっても、それを言葉にしたとき、もし、自分と同じ意見の人がいなかったらどうしよう。もし、意見に同意してくれる人が一人もいなかったらどうしよう。そう、思ってしまうのだ。
それなら言わない方がいい。前の人の意見に合わせた方が楽だ。そうして楽な方へと目を背けて来た。
けれど、変わった。思えば陽に告白されたときがきっかけだった。
最初は揶揄われているのだと思った。どこからどう見ても冴えない自分を好きだなんて、何かの罰ゲームだとも思った。
今どき、こんな罰ゲーム、盛り上がらないのに。そう思い、上手な断り方を必死に考えた。
何度も告白されて、いい加減、揶揄いではないのだと気が付いた。真剣に断らないと、そう思うようになり、けれど頑固な陽は引きさがらなかった。
何度断っても心が挫けることなく、何度でも立ち上がって真正面から体当たりでぶつかってくる。陽のことを知らない勇太に、全力でアピールしてくる。知ってほしい、わかってほしい、好きになってほしい。言葉にしなくてもその気持ちが、陽がいるだけで伝わってくる。
きっと今までなら、好きにもならなかった。自分とは住む世界が違うのだと割り切っていた。
でも、いつの間にか、同じ世界にいた。同じ土に足を並べて、そして歩き始めていた。温かな光が勇太を包んでくれていた。だから、変わることができた。伝えられた、自分の想いを。
「俺、めっちゃ嬉しいよ、勇太」
「うん、わかってる」
「ありがとう、好きになってくれて」
「うん。ところで、陽。時間、大丈夫?」
言うと、陽がベッドサイドの時計を見て慌てた。時刻は午前九時四十五分。保育参観が十時半からで、保育園までは自転車で行っても十五分はかかる。つまり、ギリギリだ。
慌ただしく、着替え始める。結局、紺のジャケットと縦ストライプのシャツにベージュのチノパンを着た。陽も勇太が選んだ服に袖を通した。
急いで革靴に足を突っ込む。スリッパを持って家を出たところで陽が「勇太」と声をかけた。
「なに?急がねーと、間に合わない」
「わかってる。でも、これだけだから」
そう言うと、陽が腕を引っ張った。ぐらり、上半身が揺れてそして陽の顔が近づき、唇に温かな感触が触れた。
「続きは夜、ね?」
慣れないウインク付きで囁かれた。格好なんかついてないはずなのに、格好良くて胸がドキドキした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる