上 下
7 / 18
世界一の恋人、そして夫

(1)

しおりを挟む
「勇太、まだ寝てるのか?」
「もう少しだけ…」
「だーめ!ほら、起きろ!」

 陽が言うと、海まで「起きろー!」と言って、布団にジャンプしてくる。
 受けた衝撃はそこそこに大きい。つい、一年前まではジャンプされたとしても腰に鈍く痛みなど走らなかった。なのに、今、勇太の腰は鈍い痛みを覚えている。

 歳のせいなのだろうか。それとも、海の成長のせいなのだろうか。できれば、海の成長のせいにしておきたい。実際、海はここ一年で一気にお兄さんらしくなっていた。
 と、勇太が感慨深い想いに囚われていると、すぐさまお玉でフライパンを鳴らす音がする。
 耳をつんざく音に、近所迷惑だろと言葉がせり上がってくる。が、言ったところでじゃあ早く起きろと言われるため、勇太はとりあえずベッドのサイドテーブルに置いてある小さな時計を覗き込んだ。

「まだ八時じゃねーか」
「まだ?もう、の間違いじゃなくて?」
「それに今日は日曜日だろ?もう少し寝かせてくれよ…」
 携帯の画面を確認したから間違いはない。なのに、陽はお玉を持つ手を止める気はないらしい。

「本当に、勇太は寝坊助さんだよね?海?」
「寝坊助さんだね、陽」
「じゃあ、俺と海二人でお出かけしちゃおっか」
 耳をつんざく音が止まった。と、思うや否や、二人の可愛らしくも憎らしい会話が聞こえ、勇太は飛び起きた。

「陽、ごめん!俺、めっちゃ」
「忘れてたとは言わせないよ?ほら、もうお弁当も朝食もできてるから、起きてきてよ、勇太も」

 誰もが見惚れてしまう笑顔を朝から放ち、陽は海とともに部屋を出て行く。その姿に勇太もまた、見惚れていたが急いで起きることにした。
 というのも今日は、三人でピクニックへ行く予定があったのだ。
 事の発端は、海の一言だった。

『みんなでキャンプしたい!』
 どうやら保育所でキャンプの絵本を読んだらしい。迎えに行った時、保育士の先生が言っていた。
『陽は?キャンプしたい?』
『そうだね、久しぶりにいいかも!』
『じゃあ、勇太は?』
 問われ、すぐには返答できなかった。施設で育ったせいもあるが、勇太は根っからの根暗体質だ。キャンプなど、陽のようなタイプがやるものだと思っていたのだ。

『俺は…』
 ぐう、と怯む。幼い子どもの瞳は無駄にキラキラしている。
『したいけど、まだ寒いだろ?』
 勇太は妥協案を取ることにした。季節はまだ五月上旬で、今年は例年よりも肌寒い。

『じゃあ、できない?』
『それは…』
 大人にとって正論を言ったところで、子どもに伝わるかと言えばそうとは限らないものだ。
 しかし、できると言えば、今すぐ今日にでもやろうと言い出しかねない。そういうアクティブなところは陽に似た。

 以前も公園行きたいとせがまれ、いいねと言うとすぐさま、ジャンパーと帽子を持って現れた。子どもは言葉に忠実なのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

ホストの彼氏ってどうなんですかね?

はな
BL
南美晴人には彼氏がいる。彼は『人気No.1ホステス ハジメ』である。 迎えに行った時に見たのは店から出てきて愛想良く女の子に笑いかけているのは俺の彼氏だったーーー 攻め 浅見肇 受け 南美晴人 ホストクラブについて間違っているところもあるかもしれないので、指摘してもらえたらありがたいです。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…

東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で…… だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?! ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に? 攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

病んでる僕は、

蒼紫
BL
『特に理由もなく、 この世界が嫌になった。 愛されたい でも、縛られたくない 寂しいのも めんどくさいのも 全部嫌なんだ。』 特に取り柄もなく、短気で、我儘で、それでいて臆病で繊細。 そんな少年が王道学園に転校してきた5月7日。 彼が転校してきて何もかもが、少しずつ変わっていく。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 最初のみ三人称 その後は基本一人称です。 お知らせをお読みください。 エブリスタでも投稿してましたがこちらをメインで活動しようと思います。 (エブリスタには改訂前のものしか載せてません)

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

処理中です...