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好きだと伝わればいいのに~優斗サイド~
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藤吉は優秀だった。教えたことは一度でできてしまう。
「データ、できたので送っておきますね」
「あ、ああ、すみません。でも、頼んでなかったのに」
「時間あったので勝手にやっちゃいました、すみません」
申し訳なさそうに言う。きっと本心なのだろう。
つまり、中身もイケメンなのだ。
(先輩も今頃はこんなふうになってるのかな)
ふと、思ってしまう。最近、そんなことが増えた。
というのも、藤吉のせいなのだ。藤吉は大学の頃から付き合っていた先輩に似ている。
決して先輩を今も好きではない。けれど、好きだったし憧れていた。
先輩みたいな人になりたいと思っていた。
(元気だったらいいな)
就業中なのに思わずそんなことを心に思い浮かべていると、佐々木に声をかけられた。
「中原も行くだろ?歓迎会」
「あ、今日だったっけ。行くよ」
優斗の会社はマメで、そういうイベント毎を好んでする。
歓迎会の居酒屋へと移動した。華の金曜日ということもあり、みんなが開放感に包まれている。
優斗も食事に酒にと、ペースを上げる。最近、蓮二も優斗も仕事が忙しく、すれ違いの日々だった。
ふと、昨日の晩の蓮二を思い出す。
『ああーむしゃくしゃするな』
『なに、どした?』
『…なあ、セックスしようぜ』
時刻は深夜十一時。藤吉とペアを組むことはさして苦痛ではないが、やはり普段一人で作業することに慣れてしまうと疲れを感じる。
『俺、疲れてるから』
『…お前、最近、それ、増えたよな』
『それってなに』
『わかんねーならいい』
吐き捨てるように言うとベッドから離れていく。そのうちに扉が閉まる音が聞こえた。
(結局、他の人のとこ、行ったんだよな)
どうせ1番にはなれない。永遠に二番目だ。
わかっているのに、わかりたくない自分が嫌で、浴びるように酒を飲む。
「中原さん、ペース早いですね」
と、いつからいたのか、隣から藤吉の声が聞こえてきた。
「いや、今日はちょっと」
「ああ、そっか。僕が疲れさせちゃってますよね」
「え?いやいや、全然そんなことは」
「そうですか?じゃあ、何かありましたか?」
ビールとビールの間、顔を覗き込むようにして問われる。
「大したことじゃないです。同居人と喧嘩?みたいな感じになって気まずいというか」
「同居してる人いるんだ。もしかして彼女ですか?」
「いや、男です。悪友みたいな」
まさかセフレとは言えず、そう言う。たしかに自分達はある意味、悪友に近いのかもしれない。
「そうなんですね。でも、いいなぁ、ルームシェアってやつですよね?僕、本社とか支店転々としてるので一人暮らし長くて。だから憧れます」
「転々としてるんですか?」
「はい。東北から九州まで行きました」
本社の人間が支店に配属となることはよく聞いていたが、そんなに幅広いなんて。と、驚いていると、藤吉が「気になります?」と言う。
「どうしてですか?」
「こんなこと、上司の方に言ったら失礼かもしれないので酒の席だけってことにしてくれますか?」
「失礼って、余計気になりますけど」
「中原さんって結構、顔に出やすいですよね?」
「え?!俺、そんなに出てた?!」
「はい。特に今なんか、意外みたいな顔、されてましたよ」
言われ、思わずごくりと生唾を飲んだ。
わかっているのだ、顔に出るということは。
幼い頃から母や友人に言われてきた。良い時は顔に出していいけど、嫌な時は出さない方がいいと。
なのに、出ていた。心配になって藤吉を見る。と、「大丈夫だと思います」と言われる。
「中原さん、今、嫌なこととか顔に出してないよね?って思いませんでしたか?」
「なんで、わかるんですか?」
「わかりますよ、中原さんのことなら、ね?」
気付けば藤吉との距離は縮まり、肘と肘が軽くぶつかっていた。距離の近さに慌てて離れようとする。
すると、瞬間、腰に圧力が掛かった。見ると、藤吉が腕を回している。
「ふ、藤吉さん?」
「ところで中原さん、彼女か彼氏はいますか?」
「はあ?」
「いなければ是非、僕が彼氏になりたいのですが」
どうでしょう?
問われ、戸惑う。
「考えてみてください。なるべくなら、早くに」
藤吉はそう言うと、空になったグラスにビールを注いでくれた。
「データ、できたので送っておきますね」
「あ、ああ、すみません。でも、頼んでなかったのに」
「時間あったので勝手にやっちゃいました、すみません」
申し訳なさそうに言う。きっと本心なのだろう。
つまり、中身もイケメンなのだ。
(先輩も今頃はこんなふうになってるのかな)
ふと、思ってしまう。最近、そんなことが増えた。
というのも、藤吉のせいなのだ。藤吉は大学の頃から付き合っていた先輩に似ている。
決して先輩を今も好きではない。けれど、好きだったし憧れていた。
先輩みたいな人になりたいと思っていた。
(元気だったらいいな)
就業中なのに思わずそんなことを心に思い浮かべていると、佐々木に声をかけられた。
「中原も行くだろ?歓迎会」
「あ、今日だったっけ。行くよ」
優斗の会社はマメで、そういうイベント毎を好んでする。
歓迎会の居酒屋へと移動した。華の金曜日ということもあり、みんなが開放感に包まれている。
優斗も食事に酒にと、ペースを上げる。最近、蓮二も優斗も仕事が忙しく、すれ違いの日々だった。
ふと、昨日の晩の蓮二を思い出す。
『ああーむしゃくしゃするな』
『なに、どした?』
『…なあ、セックスしようぜ』
時刻は深夜十一時。藤吉とペアを組むことはさして苦痛ではないが、やはり普段一人で作業することに慣れてしまうと疲れを感じる。
『俺、疲れてるから』
『…お前、最近、それ、増えたよな』
『それってなに』
『わかんねーならいい』
吐き捨てるように言うとベッドから離れていく。そのうちに扉が閉まる音が聞こえた。
(結局、他の人のとこ、行ったんだよな)
どうせ1番にはなれない。永遠に二番目だ。
わかっているのに、わかりたくない自分が嫌で、浴びるように酒を飲む。
「中原さん、ペース早いですね」
と、いつからいたのか、隣から藤吉の声が聞こえてきた。
「いや、今日はちょっと」
「ああ、そっか。僕が疲れさせちゃってますよね」
「え?いやいや、全然そんなことは」
「そうですか?じゃあ、何かありましたか?」
ビールとビールの間、顔を覗き込むようにして問われる。
「大したことじゃないです。同居人と喧嘩?みたいな感じになって気まずいというか」
「同居してる人いるんだ。もしかして彼女ですか?」
「いや、男です。悪友みたいな」
まさかセフレとは言えず、そう言う。たしかに自分達はある意味、悪友に近いのかもしれない。
「そうなんですね。でも、いいなぁ、ルームシェアってやつですよね?僕、本社とか支店転々としてるので一人暮らし長くて。だから憧れます」
「転々としてるんですか?」
「はい。東北から九州まで行きました」
本社の人間が支店に配属となることはよく聞いていたが、そんなに幅広いなんて。と、驚いていると、藤吉が「気になります?」と言う。
「どうしてですか?」
「こんなこと、上司の方に言ったら失礼かもしれないので酒の席だけってことにしてくれますか?」
「失礼って、余計気になりますけど」
「中原さんって結構、顔に出やすいですよね?」
「え?!俺、そんなに出てた?!」
「はい。特に今なんか、意外みたいな顔、されてましたよ」
言われ、思わずごくりと生唾を飲んだ。
わかっているのだ、顔に出るということは。
幼い頃から母や友人に言われてきた。良い時は顔に出していいけど、嫌な時は出さない方がいいと。
なのに、出ていた。心配になって藤吉を見る。と、「大丈夫だと思います」と言われる。
「中原さん、今、嫌なこととか顔に出してないよね?って思いませんでしたか?」
「なんで、わかるんですか?」
「わかりますよ、中原さんのことなら、ね?」
気付けば藤吉との距離は縮まり、肘と肘が軽くぶつかっていた。距離の近さに慌てて離れようとする。
すると、瞬間、腰に圧力が掛かった。見ると、藤吉が腕を回している。
「ふ、藤吉さん?」
「ところで中原さん、彼女か彼氏はいますか?」
「はあ?」
「いなければ是非、僕が彼氏になりたいのですが」
どうでしょう?
問われ、戸惑う。
「考えてみてください。なるべくなら、早くに」
藤吉はそう言うと、空になったグラスにビールを注いでくれた。
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