二度目の恋

ゆきの(リンドウ)

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好きだと伝わればいいのに~優斗サイド~

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夏の温かすぎる生温い空気が朝から立ち込めていた。

「蓮二、俺、もう行くからな?戸締り忘れないでよ」
靴を履きながら念を押すように中原 優斗は秦野 蓮二に声を掛けた。

「はいはい、わかってます」
「…遅番だからって寝すぎると」
「だから、わかってるよ~。もう起きるとこだし」
「…なら、いいけど」

呆れた声に行ってきますと呟くけれど、いつも通り見送りの言葉は聞こえない。

(いつものことだ、気にするな)

同居人の蓮二と住み始めて長いせいか、そう言い聞かせることは最早、日常となっている。

友人で同僚の佐々木に言わせれば「じゃあ同居解消したらいい」というのだが、上手く割り切れないでいる。

(どうして自分は)

と、自分自身に嘆きながら通勤路を歩いていると、「おはよっす、中原」と佐々木の声が聞こえた。

「おはよう、佐々木」

佐々木とは会社の同期で今は友人だ。最寄駅が同じため、こうして朝によく出合う。

「今日も相変わらず顔色悪いなぁ」
「そうかな?」
「そうそう!中原はいつも具合悪いですみたいな顔してるぞ?」

言われ、大丈夫なのかよと問いかけられるが、至って体調に問題はないため、大丈夫だよと答える。

「例の同居人、相変わらずなの?」
「相変わらずって?」
「相変わらず、だらしないのかってこと」
「まあ、変わらずかな」
言うと、大変だなぁと間延びする声で言われた。佐々木とは同期というだけではなく、プライベートなことも話し合える仲だ。

「…でも、一緒にいる、よな?中原と同居人さんは」
「まあ、な」
「まあ、野暮なことは聞かねーけど、たまには飲みにも付き合えよ」

越えてほしくないラインを決して越えない。佐々木のそういうところを、優斗は尊敬している。

(あいつ、ちゃんと起きたかな)

背の高い佐々木の隣を歩きながら、ふと、そんなことを思った。もう、毎日の日課になってしまっている。

二十七歳の独身男性が古民家一軒家で同居、といえば普通、ゲイカップルだと思われそうだが、優斗と蓮二は違う。けれど、身体の関係だけはある。

いわゆる、セフレ兼同居人だ。

そもそも最初は顔と名前を知っている程度でしかなかった。高校が一緒で、同じクラスだっただけの関係でしかなかった。

もう二度と会うことはない。そう思い、忘れかけていた三年前だった。ゲイバーで蓮二と再会した。

『もしかしてお前、中原か?』

基本、ゲイバーに行く時は本名を明かさないようにしていた。というのも、優斗はゲイバーに本気で出会いを求めてはいなかったからだ。

当時、優斗は失恋したてだったのだ。大学から付き合っていた彼氏と別れ、自暴自棄になっていた。

寂しいー。

就職を機に、借りた古民家が酷く広く感じて、家という存在に押しつぶされてしまいそうで、だからゲイバーに行った。

身体だけでもいい、あの家に一人になりたくない。

けれど同時に自制心は持ち合わせていて、後にトラブルに巻き込まれないようにと細心の注意を払っていた。 

だから、名前を呼ばれた時は焦った。ゲイバーに通い始めてもう数ヶ月は経っていた。もしかしたら酔いに任せて口を滑らせてしまったのではないか。そんな焦りが汗となりダラダラ流れそうになった時、『俺だよ、高校ん時同じクラスだった秦野 蓮二。覚えてねーか?』と言われた。

『秦野?って、陸上部の?』
『そう、それ俺な?いやぁ、覚えててくれてるって結構嬉しいな』

バーのまるで紫のような、大人怪しい雰囲気に似つかわしくない明るく無邪気な笑顔で微笑まれた。

不覚にも胸が音を立てた。

ダメだ、これ以上近付いたらー。

警鐘がなる。けれど、そういう時こそ人は抗えなくなるのだと自信を持って言える。

何故なら優斗は今までそうやってずるずると関係を持ってきてしまっていた。

(結局、自分のせいだ)

スマホを持つ手をポケットに入れた。今日はメールを送らない、そう決意した。
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