78 / 79
(10)
(10)-10
しおりを挟む
正直、迷いはした。もし、詩音が勘違いしたらと思うと、前途多難だ。しかし、三月には世話になりっぱなしだった。
恩を返したかった。だから、引き受けたのだ。
結果、本当に人の気配はした。それも、寒気を感じるほどに強い殺気だ。
「じゃあ、また明日」
「うん、またね」
軽くハグをして帰ることにした。彼氏のフリの第一段階目だった。
にしても、自分に彼氏のフリなど勤まるだろうか。と、考えただけで痛みそうな頭を抱えながら帰ると、玄関に入ってすぐに詩音がいた。
まだ松葉杖を使っているため、いつもなら玄関を開けてからひょこひょことやってくるのに、珍しい。
「ただいま」
「その、三月さんとはどうだった?」
矢継ぎ早に、息つく暇も与えないほどに詩音が聞いてきた。珍しいことは重なるものだと、惣一郎は素直に思う。
「どうって、ただ、話したって感じだけど」
「でも…相談だったんだよね?」
靴を脱ぎ、鞄をソファに下ろし、後ろを付いてくる詩音に今日のことをどう言おうものかと考える。
詩音はまだ三月に彼氏がいることは知らないし、今回のことは三月自身の問題だ。第三者が勝手に口出しするようなことでもないだろう。
「なんか、仕事のことで煮詰まってるらしくてさ」
「仕事?でも、三月さんの仕事と三田くんの仕事って、違うよね?」
「まあ、違う職種だけど、同じサラリーマンだし、相談くらいは乗れるから」
苦し紛れの言い訳だった。しかし、こんなに食いついてくるなんて、詩音らしくはない。
「でもさ…」
「詩音?」
「…なんでもない」
プイっとそっぽを向いてしまった詩音に、惣一郎は驚いた。詩音の様子がおかしい。
どこか具合でも悪いのだろうか。骨折した手足の具合が良くないとか。と、いろいろと考えてみたが、それならそうと言うはずだった。
思い返せば、昼にメールをした時から様子が変だった。夜、三月と会うから夕飯は冷凍食品を温めてくれとメールすると、詩音からはどうして三月と会うのかと問うようなメールが届いていた。
その時はただ、同居人が不在なことを問うメールだとばかりに思っていた。けれど、今、考えると詩音らしくはない。
もしかして。瞬間、二つの仮説が頭を過った。一つは、三月と会う惣一郎に嫉妬している説。もう一つは、惣一郎に会う三月に嫉妬している説。
恩を返したかった。だから、引き受けたのだ。
結果、本当に人の気配はした。それも、寒気を感じるほどに強い殺気だ。
「じゃあ、また明日」
「うん、またね」
軽くハグをして帰ることにした。彼氏のフリの第一段階目だった。
にしても、自分に彼氏のフリなど勤まるだろうか。と、考えただけで痛みそうな頭を抱えながら帰ると、玄関に入ってすぐに詩音がいた。
まだ松葉杖を使っているため、いつもなら玄関を開けてからひょこひょことやってくるのに、珍しい。
「ただいま」
「その、三月さんとはどうだった?」
矢継ぎ早に、息つく暇も与えないほどに詩音が聞いてきた。珍しいことは重なるものだと、惣一郎は素直に思う。
「どうって、ただ、話したって感じだけど」
「でも…相談だったんだよね?」
靴を脱ぎ、鞄をソファに下ろし、後ろを付いてくる詩音に今日のことをどう言おうものかと考える。
詩音はまだ三月に彼氏がいることは知らないし、今回のことは三月自身の問題だ。第三者が勝手に口出しするようなことでもないだろう。
「なんか、仕事のことで煮詰まってるらしくてさ」
「仕事?でも、三月さんの仕事と三田くんの仕事って、違うよね?」
「まあ、違う職種だけど、同じサラリーマンだし、相談くらいは乗れるから」
苦し紛れの言い訳だった。しかし、こんなに食いついてくるなんて、詩音らしくはない。
「でもさ…」
「詩音?」
「…なんでもない」
プイっとそっぽを向いてしまった詩音に、惣一郎は驚いた。詩音の様子がおかしい。
どこか具合でも悪いのだろうか。骨折した手足の具合が良くないとか。と、いろいろと考えてみたが、それならそうと言うはずだった。
思い返せば、昼にメールをした時から様子が変だった。夜、三月と会うから夕飯は冷凍食品を温めてくれとメールすると、詩音からはどうして三月と会うのかと問うようなメールが届いていた。
その時はただ、同居人が不在なことを問うメールだとばかりに思っていた。けれど、今、考えると詩音らしくはない。
もしかして。瞬間、二つの仮説が頭を過った。一つは、三月と会う惣一郎に嫉妬している説。もう一つは、惣一郎に会う三月に嫉妬している説。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる