愛の重さは人知れず

ゆきの(リンドウ)

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 正直、迷いはした。もし、詩音が勘違いしたらと思うと、前途多難だ。しかし、三月には世話になりっぱなしだった。
 恩を返したかった。だから、引き受けたのだ。
 結果、本当に人の気配はした。それも、寒気を感じるほどに強い殺気だ。

「じゃあ、また明日」
「うん、またね」

 軽くハグをして帰ることにした。彼氏のフリの第一段階目だった。
 にしても、自分に彼氏のフリなど勤まるだろうか。と、考えただけで痛みそうな頭を抱えながら帰ると、玄関に入ってすぐに詩音がいた。
 まだ松葉杖を使っているため、いつもなら玄関を開けてからひょこひょことやってくるのに、珍しい。

「ただいま」
「その、三月さんとはどうだった?」

 矢継ぎ早に、息つく暇も与えないほどに詩音が聞いてきた。珍しいことは重なるものだと、惣一郎は素直に思う。

「どうって、ただ、話したって感じだけど」
「でも…相談だったんだよね?」

 靴を脱ぎ、鞄をソファに下ろし、後ろを付いてくる詩音に今日のことをどう言おうものかと考える。
 詩音はまだ三月に彼氏がいることは知らないし、今回のことは三月自身の問題だ。第三者が勝手に口出しするようなことでもないだろう。

「なんか、仕事のことで煮詰まってるらしくてさ」
「仕事?でも、三月さんの仕事と三田くんの仕事って、違うよね?」
「まあ、違う職種だけど、同じサラリーマンだし、相談くらいは乗れるから」

 苦し紛れの言い訳だった。しかし、こんなに食いついてくるなんて、詩音らしくはない。

「でもさ…」
「詩音?」
「…なんでもない」

 プイっとそっぽを向いてしまった詩音に、惣一郎は驚いた。詩音の様子がおかしい。
 どこか具合でも悪いのだろうか。骨折した手足の具合が良くないとか。と、いろいろと考えてみたが、それならそうと言うはずだった。

 思い返せば、昼にメールをした時から様子が変だった。夜、三月と会うから夕飯は冷凍食品を温めてくれとメールすると、詩音からはどうして三月と会うのかと問うようなメールが届いていた。
 その時はただ、同居人が不在なことを問うメールだとばかりに思っていた。けれど、今、考えると詩音らしくはない。

 もしかして。瞬間、二つの仮説が頭を過った。一つは、三月と会う惣一郎に嫉妬している説。もう一つは、惣一郎に会う三月に嫉妬している説。
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