愛の重さは人知れず

ゆきの(リンドウ)

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 突っ走る、まさにそうかもしれない。思うとそれが正しい道のような気もしてきた。
 帰ったら詩音の好物の和食でも作ろう。そう、気合を入れ直した時、携帯が振動を伝えた。
 見ればメールの着信で、サプライズで大活躍してくれた三月からのものだった。

 ―三田さん、おはようございます。朝からすみません。突然で申し訳ないのですが今晩、お時間いただけませんか?

「今日は本当にありがとうございました」
「いいえ、でも問題はこれからですよね」

 カフェからの帰り道、隣を歩く三月の後ろを気にしながら、惣一郎は頭を悩ませていた。
 というのは、三月からの相談があったからで、その内容が思いのほか、深刻だったからだ。

『実は僕、少し前からストーカーっぽい人がいて』
 聞けば、数か月前から帰りに後ろから必ず人の気配がするようになったというのだ。

『彼氏さんには相談されたんですか?』
『それで困ってるんです…』

 三月の彼氏、勝喜の性格の問題だった。勝喜はとても心配性で、三月が勝喜に相談すると、いてもたってもいられないというように、ストーカー相手に殴りかかろうとしたという。

『まだ確証できるだけの証拠もない状態でのそれは、ただの事件になっちゃうからやめてって言ったんですけど聞かなくて』

 たしかに、三月の言う通りだ。この国では、実害がなければ警察は動いてはくれない。

『それで、その…大変申し上げにくいのですが、彼氏の代わりをしてほしいと言いますか』
『俺が、ですか?』
『はい…』
『それは、勝喜さんだと暴行事件になりそうだからですよね?』
『それもあるんですけど…実は、そのストーカー相手が女性で』

 三月が言うには、勝喜さんは意外にも外で恋人らしいことをしたがらないのだという。腕を組んだり手を繋いだり、そういうことを嫌がるそう。

『女性ってそういう確証がないと、なかなか納得してくれなくて』

 どうやら以前から、苦労しているようだった。が、その気持ちがなんとなくわかってしまった。三月は容姿も性格も声も優し気だ。となると、放っておく人はいないだろうし、もしかしてと勘違いしてしまう人だっているだろう。
 つまり、恋人のフリを本格的にすれば、ストーカーも諦めるのではないかという魂胆だったのだ。

『詩音さんもいるのに本当に心苦しいんですが、これ以上なにもせずにいるとかっちゃんが何かしてしまいそうで』
 と、結局、引き受けることになったのだった。
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