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 以前のままならきっと、まだ思い出せない詩音にめそめそとしていただろうし、愛の重さを比べ、引き摺っていたと思う。が、今はそうは思わない。
 それも、詩音のおかげだった。あの日、思い切って詩音に心の奥底を打ち明けてから、随分と楽になった。詩音がそばにいる、それだけでふらつかずに立っていられるようになったし、詩音に対しても変な遠慮はなくなった。
 愛なんてものはまだわからない。けれど、これが愛ならば、変われた自分も嫌いではない。

「まあ、俺も少しは成長したいなって思って」
「へえ~三田じゃないみたい!」

 でもまあ、いいよね。そう言う藍田も、どこか嬉しそうだった。

「でもあの元カレくんは、まだ来るんでしょ?」
「ああ、来るよ。しかも結構頻繁に」

 元カレくんとはもちろん、優星のことだ。見舞いに来た藍田とばったり、出くわしていた。
 藍田の抱く優星の印象は、惣一郎とは違う。藍田と初めて会った時、優星はまるで好青年の如く、爽やかに挨拶してみせたのだ。
 以来、藍田はすっかり優星のファンになっていた。爽やかなあの笑顔がいい~と、まるでアイドルを追っかけているファンのような反応に、惣一郎はどんな反応を返せばいいか困惑している。
 が、それとは別に頭を悩ましていることがあるのも事実だ。つい、愚痴るように溜息を吐いてしまう。

「というと、さすがの三田も妬いちゃってる感じ?」
「まあ、正直に言うとな」

 というのも、優星が家に来る回数と時間のせいでもある。どうやら優星は、トラックのドライバーをしているそうで、夜が仕事の時間だという。
 それに、詩音とは幼い頃からの幼馴染だった。詩音の両親が亡くなる前からの幼馴染で、詩音の祖父母にも随分と可愛がられてきた。
 詩音が事故に遭ってからは、祖母の見舞いには優星が行っている。そういう意味では、惣一郎は優星には頭が上がらなかった。

 だからたとえ、惣一郎が仕事で家にいない時間に、優星が詩音に会いに来ても文句は言えないのだ。

「元カレとはいえ、一度は恋人だったわけだし。しかも、三田と付き合ってたことは覚えてないんだから、心配になるのは無理もないわね」

 図星を指されてぐうの音も出ない。嫉妬、なんて格好悪いことこの上ないが、心の中では嫉妬しまくりだ。
 しかも、タイプが全然違う。世話を焼く優星に、どちらかというと焼かれる惣一郎だ。正直、どうして惣一郎と付き合ってくれていたのかと、不安に思うこともある。

「…時々、詩音が優星をまた好きになったらって考えるよ」
「詩音くんが元カレくんを?」
 ないない、と藍田は気安く言う。敢えてそう言ってくれているのはわかっていても、一度弱気になった心には慰めの言葉すらも入っていかない。

「だって詩音くん、前に言ってたって教えたでしょ?自分は好きになった人とは死ぬまで添い遂げたいですって」
 知っていた、詩音の気持ちは。けれどその好きになった人が自分なのか、今の惣一郎には想像もできない。要するに、自信がない。不安なのだ。

「じゃあ、もしだよ?もし、詩音くんが元カレくんを好きになったら、三田はどうすんの?」
 問われ、どうするのだろうと思った。詩音が自分以外の人の手を取る。そんなの、あり得ないと一蹴したくなった。

「なら、もう答えは出てるじゃん」

 突っ走るしかない、でしょ?
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