76 / 79
(10)
(10)-8
しおりを挟む
以前のままならきっと、まだ思い出せない詩音にめそめそとしていただろうし、愛の重さを比べ、引き摺っていたと思う。が、今はそうは思わない。
それも、詩音のおかげだった。あの日、思い切って詩音に心の奥底を打ち明けてから、随分と楽になった。詩音がそばにいる、それだけでふらつかずに立っていられるようになったし、詩音に対しても変な遠慮はなくなった。
愛なんてものはまだわからない。けれど、これが愛ならば、変われた自分も嫌いではない。
「まあ、俺も少しは成長したいなって思って」
「へえ~三田じゃないみたい!」
でもまあ、いいよね。そう言う藍田も、どこか嬉しそうだった。
「でもあの元カレくんは、まだ来るんでしょ?」
「ああ、来るよ。しかも結構頻繁に」
元カレくんとはもちろん、優星のことだ。見舞いに来た藍田とばったり、出くわしていた。
藍田の抱く優星の印象は、惣一郎とは違う。藍田と初めて会った時、優星はまるで好青年の如く、爽やかに挨拶してみせたのだ。
以来、藍田はすっかり優星のファンになっていた。爽やかなあの笑顔がいい~と、まるでアイドルを追っかけているファンのような反応に、惣一郎はどんな反応を返せばいいか困惑している。
が、それとは別に頭を悩ましていることがあるのも事実だ。つい、愚痴るように溜息を吐いてしまう。
「というと、さすがの三田も妬いちゃってる感じ?」
「まあ、正直に言うとな」
というのも、優星が家に来る回数と時間のせいでもある。どうやら優星は、トラックのドライバーをしているそうで、夜が仕事の時間だという。
それに、詩音とは幼い頃からの幼馴染だった。詩音の両親が亡くなる前からの幼馴染で、詩音の祖父母にも随分と可愛がられてきた。
詩音が事故に遭ってからは、祖母の見舞いには優星が行っている。そういう意味では、惣一郎は優星には頭が上がらなかった。
だからたとえ、惣一郎が仕事で家にいない時間に、優星が詩音に会いに来ても文句は言えないのだ。
「元カレとはいえ、一度は恋人だったわけだし。しかも、三田と付き合ってたことは覚えてないんだから、心配になるのは無理もないわね」
図星を指されてぐうの音も出ない。嫉妬、なんて格好悪いことこの上ないが、心の中では嫉妬しまくりだ。
しかも、タイプが全然違う。世話を焼く優星に、どちらかというと焼かれる惣一郎だ。正直、どうして惣一郎と付き合ってくれていたのかと、不安に思うこともある。
「…時々、詩音が優星をまた好きになったらって考えるよ」
「詩音くんが元カレくんを?」
ないない、と藍田は気安く言う。敢えてそう言ってくれているのはわかっていても、一度弱気になった心には慰めの言葉すらも入っていかない。
「だって詩音くん、前に言ってたって教えたでしょ?自分は好きになった人とは死ぬまで添い遂げたいですって」
知っていた、詩音の気持ちは。けれどその好きになった人が自分なのか、今の惣一郎には想像もできない。要するに、自信がない。不安なのだ。
「じゃあ、もしだよ?もし、詩音くんが元カレくんを好きになったら、三田はどうすんの?」
問われ、どうするのだろうと思った。詩音が自分以外の人の手を取る。そんなの、あり得ないと一蹴したくなった。
「なら、もう答えは出てるじゃん」
突っ走るしかない、でしょ?
それも、詩音のおかげだった。あの日、思い切って詩音に心の奥底を打ち明けてから、随分と楽になった。詩音がそばにいる、それだけでふらつかずに立っていられるようになったし、詩音に対しても変な遠慮はなくなった。
愛なんてものはまだわからない。けれど、これが愛ならば、変われた自分も嫌いではない。
「まあ、俺も少しは成長したいなって思って」
「へえ~三田じゃないみたい!」
でもまあ、いいよね。そう言う藍田も、どこか嬉しそうだった。
「でもあの元カレくんは、まだ来るんでしょ?」
「ああ、来るよ。しかも結構頻繁に」
元カレくんとはもちろん、優星のことだ。見舞いに来た藍田とばったり、出くわしていた。
藍田の抱く優星の印象は、惣一郎とは違う。藍田と初めて会った時、優星はまるで好青年の如く、爽やかに挨拶してみせたのだ。
以来、藍田はすっかり優星のファンになっていた。爽やかなあの笑顔がいい~と、まるでアイドルを追っかけているファンのような反応に、惣一郎はどんな反応を返せばいいか困惑している。
が、それとは別に頭を悩ましていることがあるのも事実だ。つい、愚痴るように溜息を吐いてしまう。
「というと、さすがの三田も妬いちゃってる感じ?」
「まあ、正直に言うとな」
というのも、優星が家に来る回数と時間のせいでもある。どうやら優星は、トラックのドライバーをしているそうで、夜が仕事の時間だという。
それに、詩音とは幼い頃からの幼馴染だった。詩音の両親が亡くなる前からの幼馴染で、詩音の祖父母にも随分と可愛がられてきた。
詩音が事故に遭ってからは、祖母の見舞いには優星が行っている。そういう意味では、惣一郎は優星には頭が上がらなかった。
だからたとえ、惣一郎が仕事で家にいない時間に、優星が詩音に会いに来ても文句は言えないのだ。
「元カレとはいえ、一度は恋人だったわけだし。しかも、三田と付き合ってたことは覚えてないんだから、心配になるのは無理もないわね」
図星を指されてぐうの音も出ない。嫉妬、なんて格好悪いことこの上ないが、心の中では嫉妬しまくりだ。
しかも、タイプが全然違う。世話を焼く優星に、どちらかというと焼かれる惣一郎だ。正直、どうして惣一郎と付き合ってくれていたのかと、不安に思うこともある。
「…時々、詩音が優星をまた好きになったらって考えるよ」
「詩音くんが元カレくんを?」
ないない、と藍田は気安く言う。敢えてそう言ってくれているのはわかっていても、一度弱気になった心には慰めの言葉すらも入っていかない。
「だって詩音くん、前に言ってたって教えたでしょ?自分は好きになった人とは死ぬまで添い遂げたいですって」
知っていた、詩音の気持ちは。けれどその好きになった人が自分なのか、今の惣一郎には想像もできない。要するに、自信がない。不安なのだ。
「じゃあ、もしだよ?もし、詩音くんが元カレくんを好きになったら、三田はどうすんの?」
問われ、どうするのだろうと思った。詩音が自分以外の人の手を取る。そんなの、あり得ないと一蹴したくなった。
「なら、もう答えは出てるじゃん」
突っ走るしかない、でしょ?
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
淫愛家族
箕田 悠
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる