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「え?」
「僕の知ってる三田くんとは、なんか、イメージが違ったからびっくりしちゃった」
言われ、つい、喋りすぎたかと焦る。
「俺のイメージって、どんな?」
しかし、イメージとは。と、妙に気になった。よく、第一印象はどうだったかと聞き合う人たちはいるそうだが、生憎、惣一郎の中でその概念はなかった。
が、今は無性に気になる。気付けば惣一郎は、この機会を逃さないというばかりにそう聞いていた。
詩音は「ん~」と、首を傾げながら考え、それから「言っても怒らない?」と問う。
「もちろん、怒らないけど」
「…じゃあ、正直に。初めて会った時は、クールな人なのかなって思ってたよ」
「クール?」
「そう。覚えてるかな、初めて会った日。三田くん、僕の筆箱拾ってくれたよね?」
もちろん、覚えていた。忘れるわけがない。
「すっごく慌ててたし、周りの人たちの視線も痛かったしで動揺してたんだけど、三田くんだけは落ち着いてたんだよね」
「そうだったか?」
「そうなの!で、この人って動揺とかしないタイプなのかなって思った」
たしかに、言われても詩音の言うようなタイプの動揺はしてはいなかった。けれど、それとは別な意味で動揺していた。
ふわふわと揺れる存在感に、心乱されていた。
「でも、しばらく経って三田くんと友達になってから、クールじゃなくて意外と不器用な人なのかもって思うようにもなった」
不器用。なんて、直接言われたことはなかった。だから、酷くその言葉に馴染みがなく、同時に詩音が抱くイメージが気になる。
先を急かすように、「不器用って?」と聞く。すると、詩音は適当な言葉を探すかのように、唸り天井を仰いでいる。
「三田くんって、ミステリー好きだよね?だからきっと、そういう話、いろんな人としたいんだろうなって思うんだけど、でも自分から話しかけられないみたいな。してみたいんだけど遠慮してるみたいなとこ、あるのかなって」
だから三月さんと楽しそうに喋っててびっくりした。
言われ、瞬間、そうなのかと独り問答した。たしかに、三月とは親しくなってから日は経っていないが、もう遠慮はしていない。けれど誰にでもそうなれるわけではなく、『話しかけたくても話せない』と言った詩音の言葉はあながち間違ってはいない。
ただ、それは癖になっていたのだ。自分の話よりも、誰かの話、母の話、妹の話。
自分の話といっても、それは取るに足らない話ばかりで、たとえば学校のテストで良い点だったとか、給食に好きな物が出たとか、かけっこで一位だったとか。それを話す時、母も妹も、もちろん聞いてはくれていた。喜ぶ母に尊敬の眼差しを向ける妹。けれど、それはいつの間にか流れてしまい、母も妹も頭の中はお互いの困りごとで満たされてしまう。
まるで、サラサラと流れ、止まることを知らない川の流れのようだった。
流れては流れ、次の流れに逆らうことができない。迫る力に抗うことのできない流れ。
いつしか、そうやって自分のことまでも流してしまっていた。話さなくても困らないからと、そのうち話さなくても自分で解決できるからと、そんな気持ちさえ抱くようになっていた。
けれど今、話したい。心の奥底に閉じ込めてしまった欲望を、封じ込めた原因を。流されてもいいから、そう思いながらきっと詩音なら流さないだろうと、確証もない確信が惣一郎の心を動かしていた。
「僕の知ってる三田くんとは、なんか、イメージが違ったからびっくりしちゃった」
言われ、つい、喋りすぎたかと焦る。
「俺のイメージって、どんな?」
しかし、イメージとは。と、妙に気になった。よく、第一印象はどうだったかと聞き合う人たちはいるそうだが、生憎、惣一郎の中でその概念はなかった。
が、今は無性に気になる。気付けば惣一郎は、この機会を逃さないというばかりにそう聞いていた。
詩音は「ん~」と、首を傾げながら考え、それから「言っても怒らない?」と問う。
「もちろん、怒らないけど」
「…じゃあ、正直に。初めて会った時は、クールな人なのかなって思ってたよ」
「クール?」
「そう。覚えてるかな、初めて会った日。三田くん、僕の筆箱拾ってくれたよね?」
もちろん、覚えていた。忘れるわけがない。
「すっごく慌ててたし、周りの人たちの視線も痛かったしで動揺してたんだけど、三田くんだけは落ち着いてたんだよね」
「そうだったか?」
「そうなの!で、この人って動揺とかしないタイプなのかなって思った」
たしかに、言われても詩音の言うようなタイプの動揺はしてはいなかった。けれど、それとは別な意味で動揺していた。
ふわふわと揺れる存在感に、心乱されていた。
「でも、しばらく経って三田くんと友達になってから、クールじゃなくて意外と不器用な人なのかもって思うようにもなった」
不器用。なんて、直接言われたことはなかった。だから、酷くその言葉に馴染みがなく、同時に詩音が抱くイメージが気になる。
先を急かすように、「不器用って?」と聞く。すると、詩音は適当な言葉を探すかのように、唸り天井を仰いでいる。
「三田くんって、ミステリー好きだよね?だからきっと、そういう話、いろんな人としたいんだろうなって思うんだけど、でも自分から話しかけられないみたいな。してみたいんだけど遠慮してるみたいなとこ、あるのかなって」
だから三月さんと楽しそうに喋っててびっくりした。
言われ、瞬間、そうなのかと独り問答した。たしかに、三月とは親しくなってから日は経っていないが、もう遠慮はしていない。けれど誰にでもそうなれるわけではなく、『話しかけたくても話せない』と言った詩音の言葉はあながち間違ってはいない。
ただ、それは癖になっていたのだ。自分の話よりも、誰かの話、母の話、妹の話。
自分の話といっても、それは取るに足らない話ばかりで、たとえば学校のテストで良い点だったとか、給食に好きな物が出たとか、かけっこで一位だったとか。それを話す時、母も妹も、もちろん聞いてはくれていた。喜ぶ母に尊敬の眼差しを向ける妹。けれど、それはいつの間にか流れてしまい、母も妹も頭の中はお互いの困りごとで満たされてしまう。
まるで、サラサラと流れ、止まることを知らない川の流れのようだった。
流れては流れ、次の流れに逆らうことができない。迫る力に抗うことのできない流れ。
いつしか、そうやって自分のことまでも流してしまっていた。話さなくても困らないからと、そのうち話さなくても自分で解決できるからと、そんな気持ちさえ抱くようになっていた。
けれど今、話したい。心の奥底に閉じ込めてしまった欲望を、封じ込めた原因を。流されてもいいから、そう思いながらきっと詩音なら流さないだろうと、確証もない確信が惣一郎の心を動かしていた。
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