70 / 79
(10)
(10)-2
しおりを挟む
『どうも』
『ちょっとかっちゃん、何してんの!』
『何って、お前が友達の家に行くなんて書置き残していくから心配になったんだろ?』
『だってかっちゃん、絶対いいって言わないじゃん』
『当たり前だろ?なんで俺が、俺も知らない奴のとこにお前を一人で行かせないといけないんだ』
収まらない会話、いつも冷静な三月が珍しく慌てる姿に、かっちゃんと呼ばれた男性が三月の恋人だと気が付いた。そして、同時にその恋人が過保護だということにも。
『ごめんなさい、三田さん。かっちゃん、って彼氏なんですけど。すっごく心配性なんです』
『…心配性にさせてんのは誰のせいだよ』
ぼそっと呟いた言葉に、思わず同意してしまった。詩音に似て三月も、天然でどこか人を警戒させないところがあるのだ。
「お礼、してくれた?」
「あ、ああ。シュークリーム持って帰ってもらったよ」
ふと、詩音に聞かれ、慌てて答えた。三月の恋人のことを詩音にも話したかったが、三月の許可を得ていないし、人によって価値観は違うがデリケートな問題でもある。
「シュークリーム?」
「ああ、家の近くの」
「あったんだ、お店」
「詩音も好きだったよ」
「…じゃあ今度、食べたいな」
「また買って来るよ」
ところで、と詩音がコーヒーを小さなテーブルに置いた。
「三田くんって三月さんと仲良いんだね」
唐突に聞かれ、少し驚く。
「そうかな?」
「うん。なんか仲良さそうに喋ってたから」
ちらりとキッチンに視線を向ける。皿を洗っていた時のことを言っているのだと思った。
誤解だと、その言葉が喉までせり上がってきた。が、よく考えればただ、友人と仲良くしていただけだ。
惣一郎からすれば詩音とは今でも恋人だと思っているが、詩音にとってはただの友人。そして、三月も惣一郎にとっては友人だ。友人が仲良く喋っていても問題はない。
詩音の記憶は大学時代で止まっている。三月と会ったのはつい最近のことで、それに大学時代から最近までの惣一郎はお世辞にも社交的とは言えない性格だった。
いつも人から積極的にアピールされ、いつだって受け身だった。周りにいる友人もサークルやゼミで知り合った人ばかりで、決して自分から仲良くなりに行こうとしたわけではない。だからきっと、詩音からすれば不思議だったのだろう。
少しだけ、嫉妬してくれたのかと期待した気持ちを押し殺した。そんなわけないと言い聞かせ、誤解という言葉も同時に飲み込んだ。
「仲良くしてもらってるよ。三月さん、喋りやすいだろ?」
「うん」
「初めて会った時もなんとなく、詩音に似てる気がして。ほら、名前も紫苑っていうし、親近感あったんだよな」
「そうだね、たしかに」
「あの本も希少だってこと教えてくれたのも三月さんなんだ。俺、全然、知らなくてさ。言われなかったら譲って帰ってきてたよ?」
「そうなんだ」
「詩音?」
相槌が多く、少し虚ろな気もする詩音に、問いかける。疲れさせてしまったのかと気になり、覗き込むと詩音と目が合った。
「三田くん、なんか楽しそうだね」
『ちょっとかっちゃん、何してんの!』
『何って、お前が友達の家に行くなんて書置き残していくから心配になったんだろ?』
『だってかっちゃん、絶対いいって言わないじゃん』
『当たり前だろ?なんで俺が、俺も知らない奴のとこにお前を一人で行かせないといけないんだ』
収まらない会話、いつも冷静な三月が珍しく慌てる姿に、かっちゃんと呼ばれた男性が三月の恋人だと気が付いた。そして、同時にその恋人が過保護だということにも。
『ごめんなさい、三田さん。かっちゃん、って彼氏なんですけど。すっごく心配性なんです』
『…心配性にさせてんのは誰のせいだよ』
ぼそっと呟いた言葉に、思わず同意してしまった。詩音に似て三月も、天然でどこか人を警戒させないところがあるのだ。
「お礼、してくれた?」
「あ、ああ。シュークリーム持って帰ってもらったよ」
ふと、詩音に聞かれ、慌てて答えた。三月の恋人のことを詩音にも話したかったが、三月の許可を得ていないし、人によって価値観は違うがデリケートな問題でもある。
「シュークリーム?」
「ああ、家の近くの」
「あったんだ、お店」
「詩音も好きだったよ」
「…じゃあ今度、食べたいな」
「また買って来るよ」
ところで、と詩音がコーヒーを小さなテーブルに置いた。
「三田くんって三月さんと仲良いんだね」
唐突に聞かれ、少し驚く。
「そうかな?」
「うん。なんか仲良さそうに喋ってたから」
ちらりとキッチンに視線を向ける。皿を洗っていた時のことを言っているのだと思った。
誤解だと、その言葉が喉までせり上がってきた。が、よく考えればただ、友人と仲良くしていただけだ。
惣一郎からすれば詩音とは今でも恋人だと思っているが、詩音にとってはただの友人。そして、三月も惣一郎にとっては友人だ。友人が仲良く喋っていても問題はない。
詩音の記憶は大学時代で止まっている。三月と会ったのはつい最近のことで、それに大学時代から最近までの惣一郎はお世辞にも社交的とは言えない性格だった。
いつも人から積極的にアピールされ、いつだって受け身だった。周りにいる友人もサークルやゼミで知り合った人ばかりで、決して自分から仲良くなりに行こうとしたわけではない。だからきっと、詩音からすれば不思議だったのだろう。
少しだけ、嫉妬してくれたのかと期待した気持ちを押し殺した。そんなわけないと言い聞かせ、誤解という言葉も同時に飲み込んだ。
「仲良くしてもらってるよ。三月さん、喋りやすいだろ?」
「うん」
「初めて会った時もなんとなく、詩音に似てる気がして。ほら、名前も紫苑っていうし、親近感あったんだよな」
「そうだね、たしかに」
「あの本も希少だってこと教えてくれたのも三月さんなんだ。俺、全然、知らなくてさ。言われなかったら譲って帰ってきてたよ?」
「そうなんだ」
「詩音?」
相槌が多く、少し虚ろな気もする詩音に、問いかける。疲れさせてしまったのかと気になり、覗き込むと詩音と目が合った。
「三田くん、なんか楽しそうだね」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説


傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

目標、それは
mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。
今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる