愛の重さは人知れず

ゆきの(リンドウ)

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『どうも』
『ちょっとかっちゃん、何してんの!』
『何って、お前が友達の家に行くなんて書置き残していくから心配になったんだろ?』
『だってかっちゃん、絶対いいって言わないじゃん』
『当たり前だろ?なんで俺が、俺も知らない奴のとこにお前を一人で行かせないといけないんだ』

 収まらない会話、いつも冷静な三月が珍しく慌てる姿に、かっちゃんと呼ばれた男性が三月の恋人だと気が付いた。そして、同時にその恋人が過保護だということにも。

『ごめんなさい、三田さん。かっちゃん、って彼氏なんですけど。すっごく心配性なんです』
『…心配性にさせてんのは誰のせいだよ』

 ぼそっと呟いた言葉に、思わず同意してしまった。詩音に似て三月も、天然でどこか人を警戒させないところがあるのだ。

「お礼、してくれた?」
「あ、ああ。シュークリーム持って帰ってもらったよ」

 ふと、詩音に聞かれ、慌てて答えた。三月の恋人のことを詩音にも話したかったが、三月の許可を得ていないし、人によって価値観は違うがデリケートな問題でもある。

「シュークリーム?」
「ああ、家の近くの」
「あったんだ、お店」
「詩音も好きだったよ」
「…じゃあ今度、食べたいな」
「また買って来るよ」

 ところで、と詩音がコーヒーを小さなテーブルに置いた。

「三田くんって三月さんと仲良いんだね」

 唐突に聞かれ、少し驚く。

「そうかな?」
「うん。なんか仲良さそうに喋ってたから」

 ちらりとキッチンに視線を向ける。皿を洗っていた時のことを言っているのだと思った。
 誤解だと、その言葉が喉までせり上がってきた。が、よく考えればただ、友人と仲良くしていただけだ。
 惣一郎からすれば詩音とは今でも恋人だと思っているが、詩音にとってはただの友人。そして、三月も惣一郎にとっては友人だ。友人が仲良く喋っていても問題はない。

 詩音の記憶は大学時代で止まっている。三月と会ったのはつい最近のことで、それに大学時代から最近までの惣一郎はお世辞にも社交的とは言えない性格だった。
 いつも人から積極的にアピールされ、いつだって受け身だった。周りにいる友人もサークルやゼミで知り合った人ばかりで、決して自分から仲良くなりに行こうとしたわけではない。だからきっと、詩音からすれば不思議だったのだろう。

 少しだけ、嫉妬してくれたのかと期待した気持ちを押し殺した。そんなわけないと言い聞かせ、誤解という言葉も同時に飲み込んだ。

「仲良くしてもらってるよ。三月さん、喋りやすいだろ?」
「うん」
「初めて会った時もなんとなく、詩音に似てる気がして。ほら、名前も紫苑っていうし、親近感あったんだよな」
「そうだね、たしかに」
「あの本も希少だってこと教えてくれたのも三月さんなんだ。俺、全然、知らなくてさ。言われなかったら譲って帰ってきてたよ?」
「そうなんだ」
「詩音?」

 相槌が多く、少し虚ろな気もする詩音に、問いかける。疲れさせてしまったのかと気になり、覗き込むと詩音と目が合った。

「三田くん、なんか楽しそうだね」

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